【小説】美香のほほえみ
「止めなよ、ここで喧嘩しても解決にならないよ。」美香が二人の間に入って押しとどめている。
「だってこの子、啓介が私の彼だって知っていて付き合ってたんだよ。」怒りで声が震えている。
「先に付き合ってたとか言うけど、未だ婚約や結婚してないんだから自由じゃないの。」と真理も返す。
歌で私の為に争わないでってのが有ったけど、反対だな、なんて大声出してる頭の中に浮かんでいる。
啓介と私は中学校の時代から付きあって居て、考えるともう5年以上カップルで通している。
美香と真理と知り合ったのは、大学の入学式だった。
彼とは高校も大学も違う、知り合いも殆ど居なくて、きょろきょろしている私に声を掛けてくれたのは美香。
「あなたもこのクラスなの、私もここなんだけど隣に座っていい?」
「私も一緒に座っていい、全然わからないから皆で教えあおうよ、美香はしっかりしてるし。」と真理が美香の隣に座った。
私はなんて言っていいか解らなかったから「どうぞ。」と答えた。
元々おしゃべりは得意じゃない、話しかけてくれて感謝である、いつも話し出すのも勇気がいる。
話出したとしても答えるのも一拍遅いので、自分から話すのはハードル高いなと感じていた。
「お前ってさー、俺の言葉にすぐ答えられないんだよね。」と彼にも言われていて、自分は鈍なんだな、そんな認識が頭にはびこっていた。
仲良くなると美香も真理もさっぱりしていて付き合いやすく、いい大学生活のスタートを切ったと感じていた。
週末は時々彼と会ったりして、学生生活をエンジョイってこの事だ、お互いにマメじゃなくて、月に一度会うのでも構わなかった。
「晶子じゃない、デートなの良いね。」と彼と居る時に声を掛けられた、美香と真理が連れ立って歩いていた。
紹介しなきゃいけないよね、思うのと一緒に声が出ていた。
「こちら、中学校の頃から付き合って居る山本啓介さん。」と言って「こっちは大学のクラスメイトの美香と真理。」と紹介した。
「カッコいい人と付き合ってるんだね。」と美香が言ってくる。
「中学校からって長いよね。」と真理。
「長いけど、お互いに良く分かってるから良いんだよ。」と彼が答えて、私も続いて。
「一緒に居て楽しいのが一番だから。」
それから数か月して、メールにやり取りをしても、帰って来ないことが多くなって、忙しいのかなって思っていたところだった。
休日に買い物でも行こうと、連絡をくれた美香との待ち合わせの喫茶店に行くと、真理と彼が手を組んで歩いている。
あっちは私を見ていないみたいだ、そのまま座っていると、美香が席に着いた。
「ごめんね、遅くなっちゃた、早く来てくれたんだよね。」
私はポカンとしてたのだろう、「大丈夫?どうしたの?」と矢継ぎ早の質問。
「今ね彼と真理が腕組んで歩いていたの、真理になんでか聞かなくちゃ。」と口に出していた。
次の日に真理を呼び出して問い詰めると、「彼が私を好きになったんだから、仕方ないでしょ。」と言いだしたから、喧嘩になったのだ。
「彼にも聞くね、だって私は別れようなんて言われてないんだもん。」そう言ってみる、
「言うだけ無駄じゃない、晶子が可哀そうだから言いにくかったんだよ。」勝ち誇った顔で真理が言う。
私は繋がらない電話に唖然として、もう駄目なんだと、好きだったのは私だけだったのをやっとのことで認識できた。
「漫画でさ女の友情は血よりも濃くて恋より脆いって、書いてあったけど、
男の方が選んでいるんだからさ、諦めなよ。」と美香。
理屈では解っているんだよ、でも感情が理屈を御しきれない、こんな時には泣けばいいのかな?
でも泣けなくって苦しいよ、人間は涙を出すことで嫌な事象を忘れるって何処かに書いてあったっけ、混乱した頭にポツリと浮かぶ。
「私だって悪いと思っていたんだよ、でも好きなのは止められないでしょ、彼が別れたって言っていたから。」言い訳が続いている。
「もう良いよ、だって気持ちは止められないし、彼が真理を好きなのなら。」あっさりそう言ってしまった。
それから真理と啓介とは疎遠になって、私の横にはいつも美香がいて、美香の優しさが私を癒してくれていた。
「ねえ、私と付き合ってくれる。」数年後に美香に言われた時にはビックリした。
「今まで美香を恋愛対象にしてなかったから、ちょっとだけ待ってくれる。」やっとのことで声に出す。
「私いつまでも待ってるから、付き合ってよね。」前からその気があったみたいで、手を絡ませた。
「真理はあんな子だったからね、嫌だったでしょ、でも私はあんな男と違って晶子一筋だから。」
「真理の事何か知っていたの?」
「あの子直ぐに彼氏を奪うのよ。」
「言ってくれたらよかったのに。」
「それじゃ私と付き合ってくれないでしょ。」
そうか、そうだったんだ、ゆっくりと美香の顔を見ると、モナリザのほほえみを模したような顔が有った。
私はゆっくり頷いた。