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【小説】休日のキッチン

休日の朝はパンにしている、普段はがっつりご飯を食べている我が家で、パン好きの私はこれだけは譲れない。

「今日はパンか、ご飯をおにぎりにしてくれると、食べやすいんだけどね。」と娘が言う。

「休み位パンにして、パンなら自分で出来るでしょ。」おにぎりだって自分で出来る歳だ、人にして貰って当たり前だと思っている方が違ってる。

「俺もパンより御飯が好きなんだけど。」夫も同じ事を主張する、そんなに良いなら自分ですれば、そんな言葉を何度も飲み込んでいる。

「私はパンが好きなの、休み位パン食べさせてよ。」頼みこんで見える様にしている。

2対1でこっちの勝ちだなんて、不思議な言い逃れに対抗するには、そんな風に自分を守るしかないのだ。

休みのご飯くらい自分で出来るでしょ、思っていても言わない言葉が周りに有って、それが渦巻いているのは家族も解っている筈なんだが。

昔、サッカー選手がイタリアのチームに行った時に、他の選手はクロワッサンとカプチーノで朝を済ませても、自分だけはご飯を食べなきゃ走れなかったって言っていたけど、あなたたちはそんなに走ったりしないよね。

「ねえ、朝はご飯と味噌汁と、おかず何品か欲しいよ、毎日の習慣だからね。」夫の声がちょっとイラつく。

「自分で作れるでしょ、休日位好きな物作ってみたらいいじゃない。」皮肉を答える。

「俺たちが作ったらお前のすることが無くなって、身の置き所が無くなってしまうぞ、いいのか?」夫は脅すつもりらしい。

「私は家事も仕事もして、休み位は自由にしたい、好きな物を好きな時好きな人が食べればいい、休みはそれでいいんじゃない。」

「分かった、自分でやるよ、お母さんの価値なんて無くなっちゃうんだからね。」どうぞご自由に、私はどうでも良いのだ。


次の休み、朝早く起きた娘と夫が、キッチンでカチャカチャ音を出している。

起きていたけど、今日はゆっくり起きるつもりだ、自分で出来るらしいしね。

「おはよう。」キッチンの惨状を見ながら挨拶をする、どうやらちゃんと作ったみたいだ。

「おはよう、見て美味しそうでしょ、この位作れるのよ。」と娘は誇らしげに見せてくる。

「良いけど、キッチンの片づけはしてね、それをしてから偉そうにする資格があるの。」強い語気で言ってみる。

「作ったんだから、片付け位してくれてもいいのに。」文句を言いながら食べている。

気が付いてないかも知れないけど、毎日作って片付けてる人間がいるんだからね、密かに頭で考えて、私はパンをアムっと食べている。


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