【小説】SNSの悪夢
今日は何もできない、それでもあの女がSNSで問題投稿をしていたのは解った。
家は静かで冷たい、人間が生活を営む気持ちを失くしていると、その場所は家で無くただの空間になるんだな。
スーパーに行っていたのに、何も買ってこなかったから、冷凍庫の冷凍弁当を温める。
この家に入って直ぐに、ある程度冷食を買って置いてよかった、食事が作れない訳では無いが、作るのは時間が居る、これでも栄養は取れるだろうと考えた。
良い時代になったのか、それとも味気ない時代になったのか、窓の外の向かいのマンションを見ながら考える。
電子レンジで温まった弁当は、思いの外いい匂いがしている、安い冷凍弁当の割には旨そうだ。
そう考えて箸をつける、ウン、旨い、前に妻が作ってくれていた食事とは比べようがないが、この値段で食べる物としては上等かもしれない。
まあ、上等は上等でも気持ちの所為か、虚しさが振り掛かっていて、好きな食事とは言い難い。
この時代コスパ、コスパという奴が多いが、これがコスパなのかも知れない、自分を納得させた。
人間は食事で出来ている、水だけでもある程度は生きて行けるが、食事が必要だ。
だけど、必要だから食べているんじゃない、食べるのは楽しみでもある、欲を満たすためと言っても良い。
冷凍の弁当はその意味では満たしてはくれない、腹が減るだから食べる、条件反射なだけだ。
食べていると、あの女の家から子供が出てきた、『あの女の子どもかな。』反射的にそう思って、写真を撮っておいた。
きっと夫も居るんだろう、帰って来るのを見つけて写真を撮って、全員の行動を調べてやる。
暗い部屋で虚しさを口に入れて、見つめながら口の中の物を噛みしめていた。
「ただいまー。」家に帰ると、大声で話すようにしている、娘が小さい時期に、寂しがっていたのを慰めるために大きな声で話していた名残だ。
「お帰り、お腹空いた、塾に行く。」この所の娘の言葉は、単語になっている。
単語じゃ無いか、テキストの文章みたいだ。
折角急いで帰って来ても、話もできない、親を恋しがる時代は過ぎたんだな、疲れと共に考える。
「何か食べる?保存食有るから直ぐに温めるよ。」いつもの調子で聞いてみる。
「ウーン、急いでるし、冷蔵庫の中のやつでしょ、食べ飽きたから良いよ。」やはり一週間分を冷凍と冷蔵で作り置きしておくのは不評だ。
「何かさ、温かいもんが食べたいんだよね。」何時の間にか夫と一緒の言葉を言う様になった、ぼんやりと考えていた。