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花嫁はサラリーマン
最近、ピラティスに加え骨格からボディメイクを始めた。
少しずつ顔と身体が変化し、絶対変わらないと思っていた肩幅まで変化してきた。
嬉しい。
もうとっくに自分の体型についてのコンプレックスは決着が付いていると思っていたが、やはり良い変化は嬉しい。
まだまだ諦めきれなかった20代の頃にこの変化が起きていたらなぁと思う。
14年前に挙げた結婚式を思い出した。
結婚当初、結婚式は挙げなくてもいいかなと思っていた。
結婚式に憧れはないし、普段真面目に働いている会社の人の前で、ごくプライベートな顔を晒すなんて想像するだけでパニックだ。
夫と話し合って身内だけで小さな式を挙げることにした。
せっかくなら好きな場所で挙げたい。
ハワイでやることにした。
コオリナの式場を押さえてハレクラニを予約した。
両親は初めてのハワイ。
内気な兄もハワイの陽気さで陽キャに変わったりするかもしれない。
楽しみにしていたが、式の3ヶ月程前に母の病気が発覚した。
手術が必要となり式の時期と場所を変えることになった。
母は自分は参列しなくていいから予定通り式を挙げるようにと言っていた。
身内だけの式なのに身内の中の身内の母が参加できない。そうなると式を挙げる意味も半減する。
ハワイはキャンセルして母の手術が終わって体調が落ち着く頃に、飛行機を乗らずに行ける場所で式を挙げることにした。
半年ほど延期して軽井沢で行った。
両親の住む群馬からも近いし、私たち夫婦も好きな場所だった。5月の挙式になった。
会社員をしていた当時、3月〜5月が繁忙期だった。
準備期間は一番忙しい時期にあたり、式の準備ところではなかった。
結婚式の主役は花嫁と言うけど、私は自分のウエディングドレス姿が全然楽しみじゃなかった。
153センチ、丸顔の私がどう頑張ってもすらっとウエディングドレスを着こなせる訳がない。髪型をこうしたい、メイクをこうしたい、というのはそうしたら自分がより良く見えるという前提だからこそ湧いてくる気持ちだ。
いくら髪型とメイクを頑張ったところで私だもん、たかが知れている。そう思っていた。
リハーサルメイクをしておいた方がいい、イメージが伝わるよう、雑誌の切り抜きを集めてイメージボードを作った方がいい。
そうアドバイスされても一向に準備する気にならなかった。忙しさはそういうところに向き合うことのいい口実になっていた。
そんな訳でノープランで当日を迎えた。
ヘアメイクの方に、ドレスを試着したときの写真が送られていた。
ドレスを着るときにスタッフの方がささっと髪をアップにしてくれていた。
「髪型はこんな感じでいいですか?」
聞かれて「はい」と答えた。
メイクが始まる。
普段の5倍くらいファンデーションを塗られた。アイシャドウはこれ以上重ねて何か変化があるかなと思うほど重ね塗りしていた。
髪型に取り掛かり始めた。
スプレーをかけられ固定されていく。
あれ?
こんな感じになっちゃって大丈夫?
試着のときの写真は前髪をふわっと横に流しているのだが、気のせいかぴっちり七三分けで固めている気がする。
丸顔に一番やっちゃいけないやつじゃないかなこれ。
いやいや、きっとこの後の展開でいい感じになるんだよね。
ゴールは別のところにあるはず。
プロだもん。
きっとなんとかしてくれる。
スプレー缶1本使い切るんじゃないかと思うくらいシューシューしてくる。
もう今更「これちょっと無しで」とは言えない。
言った後のメイク室の空気、想像したくないよ。
やだどうしよう。
七三どころか九一分けになってきちゃった。
もうこれ変わんないよ。
いい感じになるはずない。
どんどん坂道転がってくやつだよ。
下れば下るほどスピード出ちゃうよ。
最初にあれ?って思ったところで言えば良かった。
いつもこうだよ。
初めて行った美容院で新人美容師に後ろ刈り上げて前下がりボブにされたときも、バリカン出てきた時点で
「ちょっとたんま!」
って言わなきゃいけなかったんだよ。
言わないから髪型だけモードな感じに仕上がっちゃって手持ちの服が全然似合わなくて苦労することになるんだよ。
そもそもいくら相手がプロだからって
今日初めましてのメイクさんより、私の方が自分の見た目に関しては30年のノウハウがあるんだからその辺ちゃんと伝えとかなくちゃいけなかったんだよ!
七三分けとか似合いませんって言わなきゃいけなかったんだよ!
スプレー使いすぎてカッチカチだよ。
私これから式に出るんだよ。
ダイヤモンド砕くつもりで固めてもらわなくていいんだよ!
仕上がった自分の姿を見て息を呑む。
ウエディングドレスを着たサラリーマンがそこにいた。
この髪型で一生残る写真撮るんだ…。
アルバム代とかめっちゃ高かったけど、私の写真は全ショットこの髪型なんだ…!
もう時間もきちゃってるしやり直してくださいなんてとてもじゃないけど言えない…!
式の間、汝は愛を誓いますかはい誓います、の間もずっと髪型の事しか考えられない。
なんとかしてさりげなくぴっちり前髪をほぐしてみる。その都度メイクさんが直してくれる。きめ細やか。
「髪型、サラリーマンみたいじゃない?やばくない?」
夫にそっと聞いてみる。
「大丈夫、俺もサラリーマンだから!」
そっちは本当にサラリーマンなんだからいいんだよ!!
花嫁がサラリーマンで大丈夫なのかって話だよ!
似合ってるよ、その髪型いいじゃんとか適当な返事をしない。
私は夫のそういうところが好ましいと感じていたのを思い出す。
こうして無事にサラリーマン同士で式を挙げた私たち。
なんだかんだもすったもんだもそんなになく、14年間平和に暮らしています。