2024年11月 埼玉 日帰り遠方旅行譚
寝ぼけまなこで池袋駅に鎮座する。目に入るのは、次々と行きかう人々のキラキラと輝いている目だ。日帰りの旅に向かうのか、紅葉狩りか山登りかそんな希望に満ちた目だった。
まぶしい。
ふとそういう気分がした。私も今日はそちら側の人間であるにもかかわらずだ。
本日は普段の散歩旅とは趣向を変え、散歩部員思い出の地に一日日帰り旅行と洒落こむことになっていた。中高の同級生である我々は中学校の時の校外研修の舞台、長瀞を目指す予定だ。
電車で長瀞を目指す予定で、池袋駅で待っていると、一人の部員が到着した。彼は少し肌寒くなった秋でも涼しげな格好で颯爽と現れる。寒いなと話をするものの、あまり同意は得られなかった。内部にあるエネルギー溶鉱炉に差があるのだろう。
ちょっとしてでかいの氏から寝坊による遅刻の連絡が来る。普通ならば遅刻を咎め、イライラするようなシチュエーションだろう。だが、私の感じた感情は真逆のものであった。中高の時から遅刻が当たり前だった環境から、大学・会社と自分の責任が重くなっていくほどに我々の遅刻は減っていった。良いことだ。それはわかっている。ただ同時に少しさびしさを感じていたのは事実だった。もっと自由で無責任な生き方をしていたはずの若い自分にさみしさと取り戻せない気の今の自分になさけなさを感じていたのかもしれない。
電車の中で我々の会話は非常に少なかった。思い出話に華を咲かせ、今日の旅行の未来を語り合うような理想的に状況ではなく、現実は眠い、今日の予定決まってなくねとたわいのない話をしていた。そんななかでかいの氏から連絡が入る。
「熊谷にSLいたわ」
どうやら彼は我々以上に“旅”の中にいる。気を引き締めなければならないようだ。
レンタカーをかりるために寄居駅に降り立つ。駅には少しのカフェ程度があり、非常に落ち着いた駅だった。木造平屋の飲み屋街に焼き鳥屋、周辺住民の生活がにじみだす街。人工的で機能的な都会からでたことを実感させる場所だった。
車を借りてはじめにぶつかった課題は今日何をするかだった。なんと我々は目的を決めずに寄居まで来ていた。最初に述べた中高の思い出の地長瀞だが、私の記憶にはほとんど残っておらず、でかいの氏も同じ状況のようだった。11月初旬の季節もあいまり、紅葉にも少し早い。
はてどうしたものか。
少しの議論のあと行先を日本三大うどんの一つ、水沢うどんを食べに行くことに決定した。結局食である。人間そんなものなのかもしれない。
水沢うどんは、秋田の稲庭、香川の讃岐にならぶ日本有数のうどんだ。ほかの二つと比べると知名度は落ちるが、うどん自体はつるっとした麺にほどよいこしを持った非常においしいうどんだ。好みは分かれるが、稲庭と讃岐の良い要素を程よく兼ね備えたバランサーだ。
車を走らせること約一時間、水沢うどんの名店大澤屋に来ていた。伊香保温泉に続く道の途中、山の坂に水沢うどんの店が多く並んでいるが、大澤屋はその中でもひときわ巨大な店だ。
水沢うどんの老舗 | 大澤屋 (osawaya.co.jp)
着席すると席にはパッドが置いてあり、電子で注文できるようになっている。水沢うどんはうどん自体も美味だが、特に舞茸の天ぷらが絶品だ。特製のごまだれと合わせてぜひ試してほしい。肉厚の舞茸のうまみが天ぷらの衣で内側に凝縮され、食感の豊かさと合わせて他では味わえない秋の味の極致を感じさせてくれる。
うどんを食べ終わり次の目的として榛名山を想定していたが、現代人である我々は禁止技であるネットで様子を見るという技を使って榛名山の紅葉がやはり進んでいないことを特定し、大澤屋から見える山を榛名山ということにして、なんと次はゴルフ場に向かっていた。
向かったのはライズゴルフレンジ、地域の住民で満員に近い稼働であった。比較的安価でショートコースを無限に回ることができる。ゴルフのスコアについてはここでは触れないがひどいものだった。もちろん、そんな私は気力的にショートコートを一回しかまわることはできなかった。
ライズゴルフレンジ トップトレーサー | ライズゴルフ | 高崎市 (kenichi1854.wixsite.com)
気が付けば夕方になっており、帰宅の途中で温浴施設(高崎温泉湯都里)に行くことになった。最近のマイブームはサウナだ。全国津々浦々いろんなところにお邪魔している。このサウナ探訪についてはまたべつの機会に触れたいと思う。
高崎 京ヶ島天然温泉 湯都里 (yu-tori.jp)
お風呂で裸になって我々が語る内容はビジネスの話であったり、車や家族の話であったりした。その後の最後の締めで飲んだ北朝霞の居酒屋「一献」でも話題は最近やったゲームの話やその攻略法ではない、これからの人生の話をしていた。
串焼き 一献 (いっこん) - 北朝霞/串焼き | 食べログ (tabelog.com)
冒頭の遅刻の話にもつながるが、我々はもう大人であることを実感する。飲む酒は苦いもののおいしく感じるし、少し高い酒のつまみも久しぶりの集まりなら躊躇なく注文する。移動も値段ではなく、時間と快適さをもとめるようになった。この永遠のテーマである大人になるということを感じさせてくれたこの旅は短いながらにして大人の校外学習として十分に機能していた。いつまでも子供でいられないんだろう。もう既に大人なのかもしれない。今こういう悩みを持って生きていることこそが30歳に近づいた我々のリアルな人生なのだろう。今後も散歩を通じて頭と心を整理していきたい、修行を通じて悟り達する高僧にあやかり継続を心がけて。
(文責:会長)