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儚い光は強く心を彩る☆
「いつでも、どんなときでもはずしたくないから‥‥‥」というのが、その理由だった。
ダイヤモンドのピアスをするのだという一大決心を、ある日、親友から打ち明けられた。十七歳の頃のことである。(中略)
その頃の私には、「ピアスをはずさないとき」が「どんなとき」なのか、まったくわかっていなかったのだ。(中略)
それからしばらくして、私は恋に巡り合った。そしてある日、ふいに彼女の言葉の意味をすべて理解した。化粧も服もストッキングも、すべてを取り去ったときにも女でいる___彼女のピアスとは、その証だったのだ。
【光野桃/ソウルコレクションより】
光野桃さんのエッセイ「ソウルコレクション」に収められている、
『ダイヤモンドのピアス』の文中の言葉である。
今、改めて読んでみるとまだ大人の一歩手前、繊細な年頃。「女でいる」のと同時に簡単に押しつぶされてしまいそうな自分を守るために必要な「光」だったのだと分かる。
私がこの本を読んだのはもうそんな繊細な年頃は過ぎていたけれど、まだまだ不安定な頃だった。
この文章の中の彼女に憧れ、それから自分もピアスをずっと付け続けていた。どんなときも。
それから。
妊娠してからは、指がむくむので指輪を外した。
子どもが産まれてからは、その柔らかい肌を傷をつけないようにピアスを外した。
一生懸命に新しい世界を探り始めた小さな手に、鎖が絡まないよう
ネックレスも外した。
どれも以前の私がまるで肌の一部かのようにずっと身に付けていたものだ。
オシャレというよりもやはり、勇気をくれるお守りに近いものとして。
自信のない自分を奮い立たせてくれるような存在。
大人になってからは、純粋にオシャレを楽しんでいたように思っていたけれど、それだけではない想いが心の片隅にあった。
その意識しないでもごく自然に行われる、アクセサリーを身に付けるという動作。それをすべて無くした。
母になって、少しは強くなったのだろうか。
アクセサリーをつけなくても、奮い立っていなければならない時がある。
それでも、子育て支援センターや園などで、他のお母さんがアクセサリーを身に付けているのを見るとハッとした。
忙しい子育て中でも、自身を彩ることを忘れない心持ちに憧れた。
きっと習慣が続いているのだろうなぁと。
それはいつでも綺麗にしていたいという気持ちからなのか、自分にパワーをくれるお守りのようにつけているのかは分からない。
素敵だなぁ、私もそろそろ、と思いつつ、
一度習慣から外れてしまったものを戻すのは自分が思うよりも難しいようでつい忘れてしまう。
些細なことかもしれない。
だけどその些細なものほど、確実に心へ作用してくるのも知っている。
せめてイヤリング、と思い、いくつか手に入れたけれど
ことごとく片方だけ落としたり、壊れたりと、
手元から離れていくので、
もう誤魔化すのはやめた。
私がつけたいのは、ピアスなんだ。
何が違うのか。
もちろん、イヤリングしか体質的に付けられない人もいるだろうし、素敵なもの、しっかりついててくれる良質なものが有るのだろうというのは分かる。私のように最初から無くす心配をしていることこそが、それを引き起こしているのかもしれない(笑)。
だけれど、私の場合はいつの間にか無くなってしまうかもしれない心許なさを身に付けるよりは、
きちんと繋がっていてくれるピアスの方がやっぱり好きだ。
先日、久しぶりに自分が聴きたい曲を思う存分楽しんでいたら、
自然と湧き出た想い。
ダイヤモンドじゃなくていい。
ただ耳元に。
一輪の花を飾るように、
近くにいる人だけに気づかせる香水のように、
さりげなく。
少しずつ、子どもが大きくなり始めたからかもしれない。
優先順位、価値観はすっかり変わったと思っていたけれど、それらは絶えず変化していくものだった。
ふと浮かんでは消えていきそうな儚いキラメキを、
一つ一つ丁寧に掬い取って、自分自身の心を彩ってあげたいと思う。
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学生の頃、ファッション雑誌・セブンティーン、オリーブ、そしてノンノを愛読していた私。
特に光野桃さんが担当する『ノンノ』のページ・企画は本当に忘れられないものばかり。自信のない女の子たちが、明るく本来の自分らしさを愛せるように変化していく姿は読んでいる私たちにも勇気をくれる素敵なものでした。
そんな光野桃さんのエッセイ本ももちろん愛読し、美しさとは何か、自分のスタイル、生き方など、「大人の美しさ」の価値観はほとんど光野桃さんの本で養われたと言っても過言ではありません。
それは私にとって、時代が変わっても大切にしていきたい「美しさの価値観」なのです。