2024/9月第三週のゾンビ論文 宇宙を乱すゾンビ渦

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。

今回、9/16~9/22の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」五件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」三件(条件1との重複を含めれば八件)

検索条件1は経済学、医学、天文学、書評、心理学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

生存権の返還

一件目。

アラート日付:9月16日
原題:Return of the Living Claim
掲載:American Bankruptcy Institute Journal
著者:Brittany M. Woodman
ジャンル:経済学

こちらのProQuestで冒頭一ページが閲覧可能。序文によれば、"zombie debt"(ゾンビ債務)に関する論文。

What is “zombie debt” (also referred to as stale debt)? Some have defined it as debt that is not recognized as discharged following a bankruptcy — although the debt is no longer legally enforceable.1 Yet others have described zombie debt as debt that falls outside the statute of limitations and is no longer collectible, although some creditors pursue this debt anyway during bankruptcy proceedings.2 This article uses the latter definition and its predatory effect on consumer debtors, and proposes a resolution to this ongoing issue.
「ゾンビ債務」(別名、陳腐債務)とは何でしょうか?これを破産後に免除されたとは認められない債務(ただし、法的にはもはや強制執行できない債務)と定義する人もいます。1 また、ゾンビ債務を、時効期間を過ぎて回収不能となった債務(ただし、破産手続き中に債権者の一部がとにかくこの債務を追及する債務)と説明する人もいます。2 この記事では、後者の定義と消費者債務者に対するその略奪的影響を用いて、この進行中の問題の解決策を提案します。)

同論文より

論文内で扱われているゾンビの意味がわかったので、これ以上の論文の中身には立ち入らない。そもそも本文が読めないようになっているし。

ジャンルは経済学で良いだろう。


I(型インターフェロンは食細胞のアポトーシスを誘導することで黄色ブドウ球菌の鼻腔内定着を促進する

二件目。

アラート日付:9月16日
原題:Type 1 interferons promote Staphylococcus aureus nasal colonization by inducing phagocyte apoptosis
掲載:Cell Death Discovery
著者:Emilio G. Vozzaを筆頭著者として、八名
ジャンル:医学

論文タイトルを読んでも意味が分からないし、アブストラクトを読んでももちろん意味が分からない。専門用語が多すぎるからだ。

とりあえず、ゾンビ試薬を使っているために検索に引っ掛かったらしい。

ジャンルは医学。


安定した渦の中空から非中空、そして不安定への遷移 - 木星の大赤斑など

三件目。

アラート日付:9月19日
原題:The Transition of a Stable Vortex from Hollow to Non-Hollow to Unstable-such as Jupiter's Great Red Spot
掲載:77th Annual Meeting of the Division of Fluid Dynamics
著者:Philip S Marcus
ジャンル:天文学

まずアブストラクトを引用する。"zombie vortices"(ゾンビ渦)なる現象が紹介されている。

hollow 3D vortex is one in which the absolute vertical vorticity has a local minimum at its center. Hollow vortices have never been seen in the lab, but hollow anticyclones exist in stratified, rotating astrophysical flows such as numerically-computed zombie vortices in protoplanetary disks and Jupiter’s Great Red Spot.
(中空の 3D 渦とは、絶対的な垂直渦度が中心で極小値を持つ渦のことです。中空の渦は実験室で観測されたことはありませんが、中空の高気圧は、原始惑星系円盤や木星の大赤斑の数値計算によるゾンビ渦など、成層回転する天体流れの中に存在します。)

同論文より

原始惑星系円盤とは、恒星の周りに円盤状に広がるガスと塵からなる回転体のこと。また、木製の大赤斑とは、木製の模様を形作る巨大な渦のこと。要するにどちらも回転体であり、それをシミュレーションするときにゾンビ渦が発生しうるようだ。

原始惑星系円盤のシミュレーションにおけるゾンビは、以前「ゾンビゾーン」という名前で見かけたことがある。その時はよく意味が分からずに流したが、今回のゾンビ渦はちょっと調べてみた。

まず、完璧な回転体は存在しない。ガスと塵が真円を描きながら永遠に回り続けるような回転体は存在しない。ゆえに、原始惑星系円盤や木製の大赤斑といった回転体をシミュレーションする際にはそういった不安定性を含めた再現が重要となる。ちなみに、その不安定性の再現にはどうも磁気が関連しているらしい。

一方で、原始惑星系円盤には理想的な(=完璧な)回転が可能な領域が存在し、それをデッドゾーンと呼ぶ。しかしデッドゾーンも永遠に安定しているわけでもない。その安定性を乱すのが、ゾンビ渦である。ゾンビ渦は、"successive generations of self-replicating vortices"(自己複製を続ける渦)と説明され、一度デッドゾーンに不安定性をもたらす渦として発生するとその後も自己複製を続けて不安定性をもたらし続けるのである。

ゾンビの名を冠している点から考えると、発生してそのまま居座り続けるのではなく、複製をしては消えてを繰り返すのだろう。一体一体を破壊しても、根絶しない限りは人間を襲い続けるのがゾンビなのだから。

この論文では、ゾンビ渦を考慮して3次元的な渦のシミュレーションすることで、安定から不安定への遷移を再現することに成功したようだ。

ジャンルは天文学。

参考:

ゾンビ渦を初めて報告したとされる論文:"Three-Dimensional Vortices Generated by Self-Replication in Stably Stratified Rotating Shear Flows", Philip S. Marcus, et al., PRL 111, 084501.
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.111.084501


グレッグ・ヴァン・イークハウト作『ハッピータウン』

四件目。

アラート日付:9月19日
原題:Happy Town by Greg Van Eekhout
掲載:Bulletin of the Center for Children's Books
著者:April Spisak
ジャンル:書評

中学生向けのディストピア小説の書評。ゾンビも出てくるらしい。


獲物を狩り、捕食者から逃れ、配偶者を見つける

五件目。

アラート日付:9月19日
原題:Hunting Prey, Evading Predators, and Finding Mates
掲載:Interdisciplinary Perspectives and Advances in Understanding Adaptive Memory
著者:Juliana K. Leding
ジャンル:心理学?

この論文が掲載された本のタイトルを訳すと、『適応記憶の理解における学際的視点と進歩』となる。記憶に関するあれこれを調査分析した本なのだろう。なぜゾンビ論文として検索に引っ掛かったかはわからないが…。

ジャンルは心理学。脳の分野って心理学でよいのだろうか。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

何か邪悪なもの…

アラート日付:9月17日
原題:Something wicked…
掲載:?
著者:Natalie Lawrence
ジャンル:評論(科学的な知見からの批評?)

「-gender」および「-philosophical」で排除。フィクションのモンスターには科学的背景があるとのこと。もちろん、ゾンビも含まれる。


オフィオコルディセプス感染とアリの行動操作 の根底にあるメカニズム: 特異なものか、それとも普遍的なものか?

アラート日付:9月17日
原題:Mechanisms Underlying Ophiocordyceps Infection and Behavioral Manipulation of Ants: Unique or Ubiquitous?
掲載:Annual Review of Microbiology
著者:Emmeline van Roosmalen と Charissa de Bekker
ジャンル:菌類学

「-network」で排除。ゾンビアリ菌ことオフィオコルジセプス属真菌がアリを操るメカニズムの分析。


コミュニティにおける電動自転車集中充電施設の安全性と満足度の向上:北京市順義区からの洞察

アラート日付:9月20日
原題:Enhancing Safety and Satisfaction of Electric bicycle Centralized Charging Facilities in Community: Insights from Shunyi District, Beijing
掲載:Proceedings of the 2024 5th International Conference on Urban Construction and Management Engineering
著者:Xiu Gu と Tongtong Jiang
ジャンル:都市工学

「-AI」で排除。都市における電動自転車の利便性の調査。"zombie bike"(ゾンビ自転車)なる概念が導入されている。下記引用の通り、単なる放置自転車を指しているようだ。

The second was a wish for property management to strengthen vehicle management, particularly the removal of “zombie bikes (abandoned or fully charged not removed vehicles)”.
(2つ目は、不動産管理者に車両管理、特に「ゾンビ自転車(放置されたり、完全に充電されたまま撤去されていない車両)」の撤去を強化してほしいという要望でした。)

同論文より



最後に

検索条件1は経済学、医学、天文学、書評、心理学が一件ずつだった。

急に検索条件1に引っ掛かる論文が増えた。しかも、ゾンビ債務にゾンビ渦という新しいゾンビに出会うこともできた。ゾンビ債務はゾンビ企業との関連からすぐに理解できたが、ゾンビ渦は全く知識のないところからの調べものだったため非常に時間がかかった。しかし、久々に面白かった。手間もなくゾンビ論文のチェックを済ませるのも良いが、たまにはがっつりとゾンビ概念を調べるのも良い。

ゾンビ自転車もあったが、単なる放置自転車をゾンビと呼ぶのはいかがなものか。

今回はねらいの論文がなかった。


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