2024/12月第二週のゾンビ論文 大学を舞台としたゾンビパンデミックシミュレーション
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」「-Chalmers」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
「-AI」:人工知能を扱う情報科学系の論文
「-Minecraft」:人工知能のアルゴリズムをためすために、Minecraftを使う論文
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2や条件3で確かめる。
今回、12/9-12/15の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -Minecraft」八件(条件1との重複を含めれば10件)
検索条件1は、経済学、環境学、書評、哲学、教育学が一件ずつだった。そして、ねらいの論文が見つかった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
不確実な時代における経済、社会、環境の持続可能性
一件目。
アラート日付:12月9日
原題:Economic, social and environmental sustainability in uncertainty times
掲載:Global Policy
著者:María‐Jesús Segovia‐Vargas と María‐del‐Mar Camacho‐Miñano
ジャンル:経済学
戦争、政治紛争、選挙、社会的不平等、気候変動など、世界を様々に変えうる不確実性のもとで、社会の持続可能性をどう保っていくのか、提言を行う論文。持続可能性といっても、社会的・経済的・環境的持続可能性の三種を扱っており、その中で経済的持続可能性を取り上げ、"zombie companies"(ゾンビ企業)がリスクになると主張している。
ゾンビ企業は"zombie firm"とも表記し、ゆえに「-firm」で排除できるはずだった。しかし、"zombie firm"以外では今回出てきた"zombie company"に加え、 "zombie enterprize"とも呼ばれるため、「-firm」では排除できないこともしばしばある。
とにかく、ゾンビ企業という言葉が出てきた時点で私が求める論文ではないため、内容にはこれ以上立ち入らない。
ジャンルは経済学。
活性化した深海の古代ウイルスが陸上土壌でウイルスパンデミックを引き起こす
二件目。
アラート日付:12月8日
原題:Revitalized abyssal ancient viruses trigger viral pandemic in terrestrial soil
掲載:Environment International
著者:Xumei Sun と Xinyi Zhang、 Xiaobo Zhangの三名
ジャンル:環境学
zombieの単語は"zombie viruses"(ゾンビウイルス)の文字列で出てくる。ゾンビウイルスは、永久凍土に閉じ込められた太古のウイルスであり、現代を生きる我々人間に感染し、予測のつかないパンデミックを引き起こす可能性がある。これまでも複数の論文で検証が進められてきた。
ただ今回は永久凍土ではなく、深海の堆積物に閉じ込められたゾンビウイルスを扱う。1900年から17300年前に堆積したであろう深海の堆積物からウイルスを取り出し、それらのウイルスが陸上の細菌に感染することで土壌環境を破壊する可能性があることを確かめた。
私がゾンビ論文のチェックを始めたのは2023年2月のことだ。それ以降、何本かゾンビウイルスの論文を読んだ記憶があるが、人間への影響が主な関心だったように思う。今回の論文にあるような、土壌(というか、土壌生態系)への影響は初めて目にする。
そこから私はこう連想した。ゾンビウイルスによって生態系が破壊される系の作品はあっただろうか、と。いや、記憶にない。あらゆるゾンビ映画や小説を観たわけでもないが、きっと存在しないのだろう。まあ、ゾンビの怖さは肉体的・質量的な暴力と閉鎖空間における人間どうしのいざこざがメインである。つまり、生態系が破壊される作品が仮にあったとしても、ゾンビである必要は全くないのだ。であれば、この論文も本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文ではないということになる。
ちなみにゾンビに関係のない作品であれば、『深海のYrr』が生態系を扱った作品として非常に面白い。2000年代に映画化の話が持ち上がっていたはずだが、どこへ行ってしまったのやら…。まだ楽しみに待っているのだが。
ジャンルは環境学。
ジョン・カルロス・ロウ著『フィクション、映画、大衆文化におけるヘンリー・ジェイムズ』
三件目。
アラート日付:12月14日
原題:John Carlos Rowe, Our Henry James in Fiction, Film, and Popular Culture.
掲載:European Journal of American Studies
著者:Pierre A. Walker
ジャンル:書評
タイトルの通り、書評。本の中で『傲慢と偏見とゾンビ』に触れるらしい。
ジャンルはそのまま、書評。
ゾンビとエッセンス
四件目。
アラート日付:12月14日
原題:Zombie & Essence
掲載:New York: Oxford University Press
著者:Anandi Hattiangadi と Alex Moran
ジャンル:哲学
哲学的ゾンビが出てくる論文。Saul Kripkeという哲学者が著した『Naming and Necessity』のレビューをするらしい。その中身は知らないが、どうやら哲学的ゾンビの形而上学的可能性とやらを擁護しているのだとか。そして、この本をベースに哲学的ゾンビの必要条件などを議論するようだ。たぶん。
ジャンルはもちろん哲学。
勝てない戦い?教育における神話破壊が負けられない無駄な戦いのように感じられる理由
五件目。
アラート日付:12月14日
原題:A Battle We Can('t) Win? Why Mythbusting in Education Feels Like a Futile Fight We Can’t Afford to Lose
掲載:Evidence-informed Sustainability Education
著者:Stefan T. Siegel
ジャンル:教育学
教育の現場におけるゾンビアイデアに関する論文。いつまでたっても現場から消えることのないゾンビアイデアを「教育における神話」と呼んでいる。この神話を打破するためには何をすればよいか?という問いがこの論文の主題である。
ジャンルは教育学。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系を使った論文は排除されるように設定してある。
多発性骨髄腫臨床サンプルにおけるナチュラルキラー細胞の横断的免疫プロファイリングのためのフルスペクトルマルチパラメータシングルチューブフローサイトメトリー分析
アラート日付:12月9日
原題:Full Spectrum Multi-Parameter Single-Tube Flow Cytometry Analysis for Cross-Sectional Immune-Profiling of Natural Killer Cells in Multiple Myeloma Clinical Samples
掲載:blood
著者:Arghya Rayを筆頭著者として、11名
ジャンル:医学
排除キーワード不明。死んだ細胞を染色するゾンビ試薬を扱っているために検索に引っ掛かった。
根拠、削減、分析
アラート日付:12月9日
原題:Grounding, reduction, and analysis
掲載:Phyilosophy events
著者:Ralf M. Bader
ジャンル:哲学
「-philosophical」および「-AI」で排除。哲学的ゾンビに関する論文。
生ける死者の疫学:ゾンビ発生の社会的力モデル
アラート日付:12月12日
原題:Epidemiology of the Living Dead: A social Force Model of a Zombie Outbreak
掲載:arXiv: Physics and Society
著者:Sydney Balkovitzを筆頭著者として、八名
ジャンル:情報工学
「-network」で排除。ゾンビが大学の建物で発生した際の避難をシミュレーションする論文。少々複雑な建物の俯瞰図を作り、建物の中に人間とゾンビを配置し、人間がゾンビから逃走(=避難)する際の動きをシミュレーションしている。
これは、以前記事にした、ゾンビが人間を追いかける様子をシミュレーションした論文によく似ている。その論文ではシャーレを思わせるサークルの中にゾンビと人間を閉じ込めて追って追われてさせていたが、この論文ではちゃんとした建物の中に配置している。たとえば、論文中の図2にその違いが出ており、ゾンビが人間を壁に追いつめ、死人が出ている様子が描かれている。
しかも人間とゾンビがいるだけではない。感染者と死人もきちんとシミュレーションに入っているのだ。もっと言えば、感染者がゾンビになる前に死を選ぶという選択肢まで用意されている。実際にそこまで思い切ったことができる人間がいるとまでは思えないが、この論文はまさにゾンビ・アポカリプスにおける人間の振る舞いをシミュレーションしたものと言えるだろう。
ということで、この論文は本物のゾンビが存在すると仮定しても矛盾しない論文、私が探し求めている論文だといえる。これをもって今回のアラートチェックを大当たりとする。
人間の強化: 産業革命 5.0 におけるホモ・インテリジェンテスへの道
アラート日付:12月12日
原題:Human Enhancement: Moving Towards Homo Intelligentes in Industrial Revolution 5.0
掲載:American Journal of Biomedical Science & Research
著者:Muhammad Iftikhar Hanifを筆頭著者として、四名
ジャンル:情報工学?
「-network」および「-drug」、「-AI」で排除。現在のIoTやAIが引き起こした産業革命5.0に関する論文。そして、テクノロジーの進歩が制御されなければ、産業革命6.0のさなかに"Human Zombies"が生まれると主張している。
ざっと読んだだけでは"Human zombie"の意味がとれない。しかし面白そうだ。ねらいの論文ではないものの、読んでレビューしたい。
科学に基づいた教育脱出ゲームを通じて健康的な栄養に関する知識と意識を育む
アラート日付:12月14日
原題:Fostering Knowledge and Awareness about Healthy Nutrition through Science-based Educational Escape Games
掲載:Research in Science Education
著者:Miri Barak と Tal Yachin
ジャンル:教育学
「-gender」で排除。栄養学の教育をするにあたり、"Zombie Attack"という脱出ゲームの有用性を調査したらしい。BBCでニュースにもなったゲームらしい。
フッ素ポリマーとナノマテリアル、携帯電話やコンピューターのタッチスクリーンの目に見えない危険
アラート日付:12月14日
原題:Fluoropolymers and nanomaterials, the invisible hazards of cell phone and computer touchscreens
掲載:Environmental Chemistry Letters
著者:Ye Jia と Jie Han、 Eric Lichtfouseの三名
ジャンル:衛生学
「-network」で排除。スマホを触った手で食べ物をつかんで口に運んだりしていないだろうか。この論文では、スマホを含めたあらゆるタッチスクリーンが有害な化学物質を摂取する経路になりうると警鐘を鳴らしている。しかも、汚れ防止のコーティング剤が有害らしい。
…という報告を改めて読むと気を付けようという気持ちが湧いてくる。口に限らず、目をこすったりするのも気を付けなければ。
zombieの単語は"zombie eater"(ゾンビイーター)の文字列で出てくる。別にゾンビを食べるわけではなく、スマホなどを見ながら食事をする人間を指しているだけである。似た現象として、ぼーっとしながらスマホを見つめる人間をデジタルゾンビ、スマホに夢中の人間をスクリーンゾンビなどと呼ぶことがある。
スコット・エリック・ハミルトンとコナー・ヘファーナン著『現代のゾンビの理論化:文脈的過去、現在、そして未来』
アラート日付:12月15日
原題:Scott Eric Hamilton and Conor Heffernan’s Theorising the Contemporary Zombie: Contextual Pasts, Presents, and Futures
掲載:Journal of the Fantasstic in the Arts(ProQuestはこちら)
著者:Christina Connor
ジャンル:書評
「-network」および「-gender」で排除。タイトルの通りの本のレビュー。フィクション作品に氾濫するゾンビの意味とメタファーを分析する本らしい。
最後に
検索条件1は、経済学、環境学、書評、哲学、教育学が一件ずつだった。
今回のアラートチェックは結構興味深く進められた。検索条件1の生態系を壊すゾンビウイルスに始まり、条件2のヒューマンゾンビにゾンビイーター、そして大学を舞台としたゾンビパンデミックシミュレーション。
ゾンビパンデミックシミュレーションは記事にするためにも後で読み込むとして、ゾンビウイルスとヒューマンゾンビにもかなりの興味がある。単純に私がSF好きだから、という理由なのだが。ヒューマンゾンビは、字面から内容を想像することが難しいが、ざっと論文を読んだ感じではどうやら人工知能に関係があるらしい。人工知能を哲学的ゾンビの延長線でとらえる向きもあるから、たぶんその辺が関係しているのだろう。
今回はねらいの論文が見つかった。