2023/05/04(木)のゾンビ論文 ゾンビジーザス
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」(経済学・哲学・情報科学のゾンビ論文避け)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」(-companyの効果を図るため)
このうち、「zombie -firm -philosophical -DDos」の内容を主に紹介する。ただし、この検索条件で不必要にゾンビ論文を排除していないか、「zombie」の内容も確認する。また、4月まで経済学のゾンビ論文の排除を目的として「-company」を設定していたが、その効果があるのか改めて測定する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」三件
「zombie」六件(差分三件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」五件(+二件)
「zombie -firm -philosophical -DDos」の三件は歴史学が二件、情報科学が一件だった。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos」
奴隷、海賊、そしてトゥルー フォーバンの伝説
一件目。
二軒目の論文と並んで、Special Issue: Pirates and Zombiesという特集で取り上げられている。なにそれ。
原題:Maroons, buccaneers, and the legend of Trou Forban
掲載:Atlantic Studies
著者:Kieran M. Murphy
ジャンル:民族史学
原題のmaroonは、西インド諸島や南北アメリカの逃亡奴隷、またはその子孫を指す。また、buccaneerは、特に17世紀の西インド諸島でスペイン船を襲った海賊を指す。西インド諸島と言えば、ご存知ゾンビ出生の地ハイチが位置する地域である。そして、Trou Forbanはハイチのいち地域。
ハイチという単語が出てきたとき、ゾンビは映画に出てくるようなモンスターとしてのゾンビではなく、ブードゥー教の魔術師が使役する死体を指す。そして、ゾンビ=使役される死体=奴隷という連想により、この論文ではmacoonをゾンビとして扱うらしい。連想とよぶべきか、歴史的な文脈を適用したというべきか。
肝心の論文の内容は読めない上にアブストラクトも抽象的であるためよくわからない。ただ、アブストラクトに以下の一文が確認できる。ここで言う奴隷とはゾンビを指すようだ。
また、アラートのメールで以下の一文が確認できる。
奴隷=ゾンビとして、ゾンビと海賊の関連を探るという特集に沿った内容であることは間違いない。想像するに、海賊が運んだ、あるいは略奪した奴隷が西インド諸島でどのような広がりを見せたか、それが文化に与えた影響は何か、ということを調査・報告しているのではないだろうか。
トゥルーフォーバンの伝説が何を指すのかも、本文を読まない限りわからない。
ジャンルは民族史学。ゾンビを奴隷として捉える点や海賊や奴隷という西インド諸島の過去を踏まえた点を鑑み、文化学よりも適当だと判断した。
革命後のハイチで生ける屍をよみがえらせる: ヘンリー・クリストフの王国における栄光、救済、神政治的主権
二件目。
原題:Raising the living dead in postrevolutionary Haiti: Glory, salvation, and theopolitical sovereignty in the kingdom of Henry Christophe
掲載:Atlantic Studies
著者:Doris L. Garraway
ジャンル:民族史学
引き続き、Pirates and Zombiesの特集である。以下に、アブストラクトから目的が書かれている部分を抜粋する。
政治的ゾンビの意味は分からないが、Henry Christopheの王権政治について分析する論文らしい。
アンリ王は奴隷の出自を持つそうなので、それを指してゾンビ的政治と呼んでいるのだろうか。一応、アンリ王とゾンビに何か関係がないかと調べてみたがなかった。また、海賊との関連もなさそうだ。
本当に、ゾンビ論文なのだろうか。もっと言えば、Pirates and Zombies特集に適したお題で論文を書いているのだろうか。というのは、HPのKeywordを見てもzombieの単語が見つからず、また、アラートのメールにも上記の一文以外にzombieの単語が含まれる文章が書かれていないのだ。
ただ単にzombieと言ってみたかっただけなのでは。
ジャンルは、一件目と同じく民族史学。
機械学習技術を使用したソーシャル アカウントの応答の識別
三件目。
原題:Identification of Social Accounts' Responses Using Machine Learning Techniques
掲載:Proceedings of International Conference on Intelligent Vision and Computing (ICIVC 2022)
著者:Medha Wyawahareを筆頭著者として、六名
ジャンル:情報科学
アブストラクト一行目を抜粋する。
ウイルス感染させて、悪意ある人間の思い通りに動くようになったPCをゾンビPC、ゾンビボットなどと呼ぶが、もしかしてボットはすべてゾンビと呼ぶことになっているのだろうか。となれば、情報科学のゾンビ論文を排除するためには「-DDoS」よりも「-bot」の方が適しているのだろうか。
Twitterのボットと言えば、イーロンマスクがアカウントを大量凍結して対処していたことが思い出される。ゾンビの凍結といえば、ワールドウォーZでも有効な対処法として描かれていた。いや、連想して思い出して、言いたかっただけだが。
ジャンルは情報科学。
検索条件「zombie」
この条件では「zombie」の単語を含むあらゆる論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
ゾンビ・ジーザス: アメリカのゾンビ映画を通じて、白人至上主義に対するキリスト教徒の抵抗を特定する
原題:Zombie Jesus: Identifying Christian Resistance to White Supremacy through American Zombie Films
掲載:Journal of Theta Alpha Kappa
著者:Leah Hudson Ramsey
ジャンル:宗教学(あるいは神学、黒人映画学)
ゾンビ映画を人種差別の観点で読み解く論文。ただ、そこにキリスト教の観点を入れたと明言するのは珍しい。白人の思考回路にはキリスト教が根を張っており、分離不能だからだ。
この論文はゾンビ映画を4つ挙げて、ゾンビと人種差別を関連付けて読み解いている。その4つの映画とは、『恐怖城』『私はゾンビと歩いた!』『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゲットアウト』である。
前者3つはゾンビ映画ファンにはおなじみのゾンビ映画であるが、『ゲットアウト』をゾンビ映画と捉える人間は、少なくとも日本では一人もいないだろう。この論文は『ゲットアウト』をゾンビ映画として捉えるべき理由をきちんと記述している点で興味深い。
また、前者3つに関しても同じくらい紙面を割いて解説しているため、ゾンビ映画と人種差別の関連を知る、ひいてはポリコレ映画を分析するために非常に役立つ論文であるように思う。
ただ、もちろんねらいの論文ではない。
この論文がこちらの検索条件にヒットしたのは、「-philosophical」に引っかかったからと思われる。正確には、見つかった単語は"philosophy"だった。Googleの検索システムならば、形容詞だろうが名詞だろうが関連する単語であれば、検索にひっかけているだろう。
THE MONSTER INSIDE ME: 劇的な美学、架空の怪物、黙示録の真っ只中の退屈についての 11 の対話
原題:THE MONSTER INSIDE ME: 11 Dialogues about drastic aesthetics, the fictional monster, and boredom in the midst of the apocalypse
掲載:Atlantic Studies
著者:Antonia Prochaska
ジャンル:映画感想文
これもSpecial Issue: Pirates and Zombiesの特集。
"This work explores the human demand for fictional monsters and the narrative of the zombie apocalypse."(この作品は、架空のモンスターに対する人間の需要と、ゾンビの黙示録の物語を明らかにします。)とあるので、ジャンルは映画感想文で良いだろう。
本文が読めないため確かめられないが、引っかかったのは「-philosophical」だろう。
プロトタイプ ボード ゲームの設計と作成
原題:Designing and Creating a Prototype Board Game
掲載:East Tennessee State Universityが発行するUndergraduate Honors Thesesという論文集
あるいは、2018 ASEE Conferences - Conference for Industry and Education Collaboration
著者:Kurtis Woodward
ジャンル:教育
ゾンビが出てくるボードゲーム。これがなぜ論文になるのかわからないが…。ジャンルは教育学。学会名より。
しかし、「-firm -philosophical -DDos」のいずれにも引っかかっていない。何かおかしい。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos -company」
ゾンビ企業には"zombie company"という表記もあることから、そういったゾンビ論文を排除するために設定した検索条件。
この検索条件では「zombie -firm -philosophical -DDos」にヒットした論文のうち、「company」の単語を含むゾンビ論文が排除される。その排除される論文が経済学の論文であれば、目的を果たしていることになる。
…はずなのだが、なぜかほとんど異なる結果が得られている。どういうアルゴリズムでアラートを出してくれているのか、はなはだ疑問である。
「zombie」の検索結果から、「奴隷、海賊、そしてトゥルー フォーバンの伝説」を除くと、この検索条件の結果となる。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos」の三件は歴史学が二件、情報科学が一件だった。
しかし最も気になるゾンビ論文は、「zombie」の宗教学の論文だった。黒人映画学に通ずるものがあるため、いつか読んで、まとめておきたい。ポリコレ映画の精神性を理解するためにも。
今日はねらいのゾンビ論文なし。