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土神と狐|宮澤賢治
あらすじ
一本木の野原に立つきれいな女の樺の木に心惹かれている、土神と狐。切なさ、嫉妬、執着、憎悪、怒りといったさまざま感情が渦巻く賢治作品を、小林敏也による緻密かつ大胆な線と色遣いで、その感情を見事に表現している。
読書の動機
睡眠用のBGMで、童話の朗読に聞いたことがあったのですが、途中で眠ってしまったので結末がわからず、結末が気になったので読んでみたくなりました。また、画家の小林敏也さんのイラストが良かったのも、この本を選んだ理由です。
感想(ネタバレ注意です)
まず、最初に思ったのは、「童話」の範疇を超えているな、というものです。樺の木に惹かれている土神と狐の、それぞれの苦悩があり、複雑な感情の表現がありました。
土神と狐はそれぞれ、一本の樺の木に恋をしています。土神は、神とはいえ、見た目が醜く、「正直」という表現がされていましたが、マイナスの感情(怒り・嫉妬・執着)を強く感じていました。一方狐は、上品で知性がある様に見え、樺の木は狐の方を好ましく思っています。ただ、狐は実際は嘘をついていて、偽りの自分を見せていることに後悔をしつつ、本当のことを話せないでいます。
最後、嫉妬に狂った土神は、狐を追いかけて殺してしまいます。
その時の狐の様子の表現が、「少し笑った様になったまま」となっていて、ここがとても引っかかりました。
この「笑う」という表現は、終盤に2回出てきます。
まず前述した、狐が土神に捻り殺される部分の「少し笑った様になったまま」
そして、最後の行の「うすら笑ったようになって死んでいたのです」
この2回の「笑う」の間に、土神は、狐の家に入り、狐が自分自身を偽っていたことを知ります。また、狐の上着の隠しポケットから、カモガヤの穂が2本入っているのを見つけ、大声で泣きます。
「笑う」は最初、偽っていた現実を終える事ができた安堵の笑みだったと思ったのですが、2回目に出てきた「うすら笑う」をみて、土神に「殺人」という行為をさせて満足(貶めれた)の笑みとも取れるのかなと思って、よくわからなくなりました。また、2本のカモガヤの穂にも、何の意味があるのかは説明されていません。
また、土神の内面や、狐に対する嫉妬や憎しみは詳細に描かれているのですが、狐が土神をどう思っていたかは、詳細に描かれてはいません。
狐はどう思っていたのでしょうね。
読めば読むほど、深いお話です。
心に残った文章
その泪は雨のように狐に振り狐はいよいよ首をぐんにゃりとしてうすら笑ったようになって死んでいたのです。