映画『パリ13区』〜あなた、誰?〜

映画「パリ13区」に対しての感想。短い5つの文章です。ネタバレ含みます。

 エミリーの祖母は介護施設で暮らしており、認知症を発症しているようである。介護施設に伺ったエミリーは祖母の全くケアされていない髪の毛を整えてあげるのだが、祖母は「あなた、誰?」と先ほどまで髪を切ってくれたエミリーに問う。 あなたは誰... エミリーは咄嗟には答えられない。私は誰なのだろう...  マッチング・アプリで即席的にセックスをして別れる、それの繰り返し... その場その場の自分...  私は誰...
 舞台はパリ13区、1970年代の都市開発により生まれた高層マンション、ビルが連なる街、アジア系移民が多く暮らしている。伝統地区というより、近代都市のようなものであろう... モノクロ。この映画はモノクロで撮られているが、そのモノクロの様は「無機質」とつながるのではないだろうか。近代の効率化、合理化の精神による都市。無機質的で繋がりが切れたそんな都市と。
 そんな無機質的で繋がりが切れた社会の中では孤独感、不安感が溢れている。しかしそれを我々は何で埋めるのであろうか...  そしてこの映画は様々な問題が交叉する。人種、吃音、学歴、高齢者介護、ポルノ、セクシュアリティ、ジェンダー...  無機質で繋がりを切れたと言っても、人間が機械的になるわけではあるまい...  都合の悪いことをただグレーゾーンに押し込めているだけなのである。この映画は、まさにそのグレーゾーンでの人々の性・生のリアリティーを捉えているように思える。
 ノラのセクシュアリティ、セックスシーンでの振る舞いに関してだが、この流動的でかつ葛藤的で、明示的な説明ができない様こそにいろんなことが詰まっているのだろう。男性優位のベッド空間、バッグを求める痴女という"ロール"...での葛藤と言えばいいのだろうか。そして最後、吹っ切れたようにその男性優位性を逆転させる。男がイラマチオするかのように、女が"イラマ-クンニ"をする。その逆転性が爽快である。
 最後音楽でも語ろう。サウンドトラックがあった。→https://music.apple.com/jp/album/les-olympiades-original-motion-picture-soundtrack/1590350485。やはりこれは現代的であるなぁ、デジタル音楽である。泡のようである、途切れる。そこには即席的でリズミカルなセックスと即効的な快楽がある。そんな感じである。


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