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春の行き先

あわてん坊はサンタクロースだけではないらしい。

春が風に乗ってふわっと飛んでいき、かわりにあわてん坊の夏がやってきた。まだ4月ですよ。

そんな初夏のような陽射しの日。久しぶりにエミリ・ブロンテの小説「嵐が丘」を読みたくなり図書館へ行った。

パラパラとページを飛ばして、適当に開いたページを読む。

リントンは、暑い七月の一日を過ごすいちばんたのしい方法は、朝から夕方まで荒地のまんなかのヒースの土手の上に寝そべって、花のなかをはちが夢のようにうなる音や、空の高いところでひばりが歌う声を聞いて、一片の雲もない青い空に、明るい太陽が照りつけるのをながめてることだって言うの。それがあの子の考える天国のような幸福のいちばん完全な姿なの。あたしのはね、西風が吹いてさらさら枝を鳴らす緑の葉の茂った木の上で体を揺すって、空には輝く白い雲がどんどん流れてゆくし、ひばりだけじゃなくてつぐみだとかブラックバァドだとかべにひわだとかかっこうだとか、四方八方でたっぷり音楽を聞かせてくれて、遠くの荒地は涼しい黒っぽい谷のほうまでつづいて、近くでは長く伸びた草が波のようにそよ風にうねって、それから森に水の音に─全ての世界が生き生きと動いて喜びに踊り狂うばかりなの。
世界文学全集15  「嵐が丘」 エミリ・ブロンテ著
325頁 新潮社 1961年

「嵐が丘」は結構めちゃくちゃな小説だけど、たまにこういう風景描写がある。小説の舞台は19世紀前半のイギリスの田舎だと思うんだけど、僕の子供の頃の団地の記憶と妙に親和性があって、少し感情移入してしまうのだ。

この季節の図書館にはだいたい、本を読みながら寝落ちして、春眠暁を覚えずモードに深く入っているおじいちゃんおばあちゃんが2人くらいいる。(たまに僕も仲間に入れてもらう)

建物全体に静かに広がっていくのどかな空気。春にぴったりじゃないかと思う。去年も思った。毎年思っている気がする。

なんだ。春は飛んで行ったのではなく、図書館にいたんだ。



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