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映画感想文「ブルーピリオド」芸大目指す青年を眞栄田郷敦が好演。戦略と努力が才能を凌駕する

こういう人、いる。

何やっても器用。どの分野に取り組んでも、ちゃんとセオリーわかってて成果を出せる人。結局は持って生まれた才能より、そんな戦略と努力が勝るのが世の常だ。

だから一見あり得ない感じもあるこの物語が、むしろとてもリアルで、ありだなと思う。

八虎(眞栄田郷敦)は高校2年生。毎晩のように悪友達と渋谷の街で遊び歩き、帰宅は明け方。それでも成績はトップクラスで先生にも一目置かれており、友人からの人望も熱い。

だけど、彼の中には絶望がある。「ただうまくこなしてるだけで、何にも情熱を持てない」という、贅沢で、それだけに誰にも言えない憂鬱である。

そんなある日、美術部の部室で見た一枚の絵に、すっかり心を射抜かれる。一つ上の森先輩(桜田ひより)の描いた絵だった。

美術に興味を持った八虎。森先輩に誘われるままに美術の授業の課題「私の好きな風景」を描く。手探りでの初めての自己表現。結果、その絵はクラスのみんなから賞賛を受ける。

それは初めての生きてる実感、であった。

やがて彼は「現役生の倍率200倍」の東京芸大を受験することを決意する。

ある意味、東大を目指す「ドラゴン桜」などとも通じる。自分には無謀な無理めな道を選び、幾多の困難を全力で乗り越えていくという、青春モノ定番ストーリー。

ただ、美術が勉強とは異なるのは、頑張り方である。正解はない。答えは一つではない。自らの視点での表現が求められる。

まさに「あなたにそう見えるのなら、うさぎもりんごも青い」のだ。これは凡人にはきつい。そして評価も針金のように刺さる。数学のテストとは違うのだ。自らの作品の低評価は、自らを否定されたかのような身を切るような痛みであろう。

八虎同様に芸大を目指す同級生も多彩な顔ぶれで魅せる。スカートにバッチリメイクで、クラスメイトからゆかちゃんと呼ばれる同じ高校の龍二(高橋文哉)。絵画の才能に恵まれた天才世之介(板垣季光人)。芸大主席の姉を持つマキ(中島セナ)。個性あふれる面々である。

また、高校の美術教師に薬師丸ひろ子。美術の受験塾の教師に江口のりこ。と、こちらもそれぞれ好演。

主演の眞栄田郷敦は八虎同様、なんでも器用にこなすというイメージがある。だからこの役はぴったり。そして漫画の実写という難しいお題に対しても、なかなか奮闘していたと思う。

見応えのある作品であった。

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