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映画感想文「リッチランド」原爆を作った街の誇りと苦悩を知るドキュメンタリー

この街を知ったのは数ヶ月前に観た映画だった。

第二次世界大戦の米国。原爆開発のマンハッタン計画により人工的に作られた街、リッチランド。

政府の号令であっという間にその街が出来上がる様子が、アカデミー賞受賞の「オッペンハイマー」に出てきた。

先住民が住んでいたワシントン州南部の広大な土地。そこを政府が買い上げ、核燃料生産拠点を築いたのだった。

まだ放射能の恐ろしさが世に知れ渡る前のことだ。

希望に燃え、または報酬の良さに惹かれ、人々は集まった。住民のほとんどが原子力開発に携わった。

しかし段々と雲行きが怪しくなってくる。生まれたばかりの乳幼児の死亡が増え、働き盛りの人々が次々と病に倒れた。

それでも、残念ながら人間はそんなに合理的に出来ていない。自らが信じ邁進してきたものに裏切られたと悟った時、すぐにそれを受け入れることはほとんどの場合、とても難しい。無意識に不都合な真実を封印したり、正当化したりするだろう。自分が当事者でもそうなると思う。

そして抜き差しならぬ状況で向き合いざるを得なくなった時、その苦悩はいかほどのものか。きっと想像を絶する辛さであろう。

「父は働いた。家族のために。そしてそのおかげで私たちはいい暮らしができた。私は大学にまで進学することができた」50代の若さで父親をガンで亡くしたという女性の語りを前に、言葉がなかった。

仕事人間で自らの仕事に誇りを持っていた彼女の父は、死ぬ前に自らの選択が過ちであると語ったという。なんと酷なことであろうか。

核廃棄物による汚染は今も続く。

一方でそこで暮らしながら誇りを持って生きる人々がいる。原爆のおかげで戦争を終わらせることができた。「オッペンハイマー」でも耳にした理屈がここでも繰り広げられる。

そう、物事は他方から見ればこのような真実となるのだ。お互いに自分の見たいものしか見えない。そんな分かり合えない世の中で、分かり合えないもどかしさをしみじみと痛感する。

それでもそれを放棄せず、分かりあうために、このような作品がある。物事の見方について考えさせられるドキュメンタリー映画である。

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