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映画感想文「ディト」異国の地で自らの居場所作ろうともがく父娘の物語、無性に心動かす

心を揺さぶる作品だ。

前半の話の進みがやや冗長だとか、色々と難癖つけようはある。それでもそういう「映画作りのセオリー」を超え、作り手の熱情が伝わる。

親子の物語だが余計な涙やスキンシップはない。どちらかというと淡々と描かれている。だが、過剰な演出のないことでかえってリアリティが増し胸に迫るストーリーとなっている。

舞台はフィリピン。プロボクサーの英次(結城貴史)は家族を日本に残し、ひとり海外でボクシングの夢を追いかけていた。

そんなある日、幼い頃に別れた娘の桃子(田辺桃子)が彼の前に現れる。「お母さん、死んだよ」、会うなり父に言葉をぶつける。

17歳の彼女は高校を中退。退路を経ってフィリピンにやってきたという。

父と娘の久しぶりの邂逅。しかし、急に親子になれるわけもなく、ぎこちなくふたりの暮らしはスタートする。毎日肉体労働のアルバイトとボクシングに明け暮れ娘をろくに構わない父。勝手の違う異国の地で、ひとり戸惑う娘。

数々の衝突や失敗。そんな日常が積み重ねられていく。やがて少しずつ、互いの影響で変わっていく父と娘。

俳優の力か演出か、物語後半に行くにつれ、冴えないおじさんだった英次はどんどんと、シャープにカッコよくなっていく(40代半ばの設定だが、まるで20代の鍛え上げられた肉体である。顔立ちも精悍になっていく)。

またいつも不安で不満げな表情だった桃子。こちらも段々と周囲に馴染み明るく強く輝きだす。

ここで生きていくのだと、腹を括った父と娘の強さがそこに見える。

最後に、特筆すべきは、舞台となるマニラの様々な風景。これがまた、とても素晴らしい。ゴミがうず高く積み上げられてるスラム街、その対比となる高層ビルが立ち並ぶ街中。そしてミンダナオ島の美しい海辺。カラフルな家が並ぶ、バギオ。

そこに住まう様々な人々はみな一様に、人懐っこく親切だ。

監督兼主演は結城貴史。本当に恐縮だが本作で初めて知った。本作は彼の初監督作品だという。

尾野真千子以外は知ってる俳優はいない。が、評価高いので興味持ち、視聴した。観てよかった。この監督の作品をまた観たい。

ちなみに尾野真千子は結城監督の25年来の友人だそう。そんな友情出演をする彼女は、やっぱり好感度高い女優さんである。

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