映画感想文「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」ベテラン女優ふたりの名演を見ながら人生の幕引きについて考える
綺麗すぎるのだ。
物語としては。
感情を揺さぶるには、今ひとつ物足りない。
それでもアートとして堪能できる美しさがある、ペドロ・アルモドバル監督作品。華やかな色彩とスタイリッシュな映像を堪能できる。
病に冒され治る見込みのないマーサ(ティルダ・スウィントン)は、治療を拒み、尊厳ある死を望んでる。それでもひとりで旅立ちたくない。誰かにそばにいてほしい。そこで、若い頃に同じ時を過ごした友人イングリッド(ジュリアン・ムーア)に隣の部屋にしてほしいと頼む。
小説家であるイングリッドは悩みながらもそれを引き受ける。
マーサが最後の時に選んだ別荘で、何事もなかったかのように日常を過ごすふたり。そしてある日その時がやってくる。
中性的で硬質なイメージのティルダ・スウィントン。痩せ細り青白い顔。病人ということもありほとんどベッドに寝たきり。
かたや女性的で柔らかな丸みが持ち味のジュリアン・ムーア。マーサの世話をしながらも、スポーツジムに行ったり恋人とランチをしたり、精力的に動き回る。そして、時には感情を爆発させる。
色んな意味で正反対のふたり。
そしてそんな現代のやりとりの合間に、幾度か回想シーンが挟まれ、戦場特派員として長年活躍したマーサのこれまでの人生が語られる。
若き頃のマーサが冷静沈着であり、感情の揺れがあまり感じ取れない。それが少し残念。どんな人間も若い頃はもう少し不安定なものだ。そのような描き方なら、その後の人生でマーサが得た落ち着きや安楽死という結末にもっと重みや共感が得られた気がする。
また、ジュリアン・ムーアを使うならもう少し情緒的な場面が欲しかった。それが彼女の得意分野で素敵なところだから。
しかしいずれにせよ、ベテラン女優ふたりの名演を観察できる良き作品である。