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映画感想文「コール・ミー・ダンサー」インドの青年の夢に心揺さぶられる秀逸なドキュメンタリー
こういうのに、めっぽう弱い。
何度も吐息が漏れたドキュメンタリー。
ダンスが金にならない国、インド。そんな国の若者マニーシュ。ムンバイに住む、労働者階級の家庭に生まれた。
祖父も父もタクシー運転手。母は朝から晩まで縫い物の内職。そんな夫婦の稼ぎは全て子供たちの学費に注ぎ込まれた。
決して豊かではない暮らしの中、大学進学率が30%弱の国で、子供たちは大学に進学する。自分たちより良い暮らしをしてほしい。それが父母の夢だった。
しかしマニーシュには別の夢があった。いつかダンサーになりたかった。だけどその方法もわからない。残念なことに、彼にアドバイスできる人は周囲にいなかった。
何年も独学でストリートダンスを学ぶ。
大学生になったある日、出場したダンス大会で知り合ったダンサーに声をかけられる。「すごいね、才能あるよ。どこに通ってるの?」
独学だと答えると、ダンススクールを勧められた。そんな選択肢を知らなかった彼は、勇足で向かう。そして費用が払えないため、特待生として通えないか学校に掛け合う。
素晴らしい師にも巡り合った。そこから彼の本格的なダンス人生は始まった。踊りに邁進する毎日は幸せだった。誰よりも努力した。誰よりも才能があった。
だけど、彼は希望する世界に入ることができなかった。一流の世界に入るには、才能を磨き始めるのが遅かったのだ。
それでも、人生にはダンスしかない。キッパリとそう言い切り、嬉々として踊る彼を見ると泣ける。
そう、しみじみと思い知らされのだ。才能とはそれ単体では花開かず、環境との掛け合わせであることを。人は1人では開花しない。誰しも誰かのちょっとした手助けのおかげでここにあるのだ。
彼は諦めていない。そして、時にユーモアも交え、終始happyなトーンで繰り広げられる映像。
それでも、そこに吐息が漏れてしまうのだ。
彼の人生に幸あれと祈らずにはいられない。
生まれや育ちに関わらず頑張る人は報われてほしい。そうでなければ自分も頑張れないと思うから。
結局はそれは自らごとでもあり、祈りにも似た願いである。
心が揺さぶられるドキュメンタリー映画でおすすめである。