映画感想文「Back to Black エイミーのすべて」切ない、才能溢れる歌姫の波瀾万丈な27年
知らなくて、ごめんなさい。
という気持ちになった、エイミー・ワインハウス。
映画をきっかけにアルバム聴いたが素晴らしかった。
20歳でデビュー、27歳で夭折した英国のミュージシャン。ハスキーな声で歌い上げられるその歌は、いずれも自らの人生を赤裸々に描いたもの。
ズタズタにどこまでも落ちていく気持ち、他の女の元へ去っていった男への未練を歌う『バック・トゥ・ブラック』。
酒にまみれて周囲からリハビリ施設行きを勧められるが行かないわ、だって人生に絶望してるから、と朗々と気高くうたいあげる『リハブ』。
どれも彼女の人生に実際に起こったこと。それを正直に語る。ここまで曝け出してるのがびっくり、といった歌詞。そして魂のこもった歌い方。
祖母はジャズ歌手。父も歌手。いわばサラブレッドだが、ろうたけた歌い方は、20代の歌い方じゃない。
これがまた、演じた女優マリサ・アベラが実際に歌っているのだが、歌うまくて見た目も本人そっくり。とっても良かった。彼女の熱演はもっと認められてもいいよ、というくらい素晴らしかった。
だけど、転落の影には男あり。エイミーは酒場で出会ったブレイクと恋に落ちる。
女にだらしない、暴力沙汰で警察に捕まる、ヤク中でアル中という男。正直どうしようもない奴である。そんな彼と何度もくっついたり離れたり。要するに共依存。段々とお互いにダメになっていく。
側から見たら、やりきれない。こんなに稀有な才能溢れる、将来の展望もあかるい彼女。なぜこんなに追い詰められていったのか。だいたい、他にいくらでも男はいただろうに。
なぜ、彼でなければならないのか?
愚問を呈したくなる。だけど、その愚かさが正に「恋」だよね、なのである。
そして酒に溺れなければ生きていけなかったほどに、繊細で不安定で情緒豊かな彼女。だからこそ、こんな素晴らしい楽曲が生み出せた。
それを我々はいま、享受している。
なんだか切ない。でもって、ちょっと後ろめたい。
彼女の生き様は、とても眩しい。辛いことには蓋をしたり、やり過ごしたりしている凡人には。だけど反面、自らの平凡さに安堵したりもする。
人は両方の感情を持っている。
なかなか見応えのある作品であった。