映画感想文「マミー」和歌山カレー事件の真実を追うドキュメンタリー映画
いまだに記憶に鮮明なのだ。
だから、あれから26年経っていることに驚く。判決が出たものの、今ひとつモヤモヤする事件であった。
そんな人が多いのだろう。公開から1ヶ月半経つのに、単館での上映とはいえ、映画館は満席だった。
あの、和歌山カレー事件のドキュメンタリー映画である。1998年7月、地元の夏祭りで振舞われたカレーライスにヒ素が入っていた。67人が中毒を発症、4人が死亡した。
犯人とされたのは林眞須美容疑者。一貫して容疑を否認していたものの、2009年に最高裁で死刑が確定した。いまも獄中にある。
その事件を関係者への証言から再び問い直そう、という映画だ。
結論から言おう。本作を見る限りでは、検察側の証拠に心許ないものは感じた。マスコミの過剰報道が追い討ちをかけた面も否めない印象はある。
しかし、である。同時に本作の中で何度もインタビューが取り上げられる林容疑者の夫、健治氏の発言。これに異常さを感じ、震えが止まらなかった。
カレー事件とは別の保険金詐欺を語る口調や周囲への接し方、これらを見る限り、どうしようもない邪悪さを感じたのだ。しかも、本人は悪気ないからタチが悪い。絶対に近づきになりたくない危険さ、私の中のアラームの針が振り切れた。
だからと言って妻の眞須美容疑者が犯罪を犯したのかどうかは別ものである。夫婦とはいえ別人格ではあるし。だから眞須美容疑者が本当に罪を犯したのかを問い直すことは、必要だとは思う。
でも、もし監督が無実だと訴えたいと願い本作を作ったのであれば、それは成功したとは言い難い。少なくとも健治氏を出すことは逆効果であろう。
尚、これを見て再び辛さを感じたのは、彼らの子供達だ。
昨年彼女の長女がその子供達を道連れに無理心中を図り、ニュースになった。残された家族の苦悩を思うと本当にいたたまれない。もし自分であってもその血の繋がりに苦しむと思うからだ。子供には罪はない。こういう時に血の繋がりは人を苦しめる。
人はどこまで自分以外のことを背負うべきなのか。その問いが脳裏から離れない。