映画感想文「エターナルメモリー」夫がアルツハイマーになった時、ある夫婦の物語
最も怯える未来はなにか。
それは、アルツハイマーになることだ。全てを忘れて自分ではなくなってしまう。それは、自分であり続けたい私にとって最も避けたい事態なのである。
もちろん、肉体の痛みは辛い。嫌である。それでも意識がはっきりしていれば、辛いながらも意志の表明ができる。自分で選択できる。それなら最後まで尊厳が守られる気がしてる。
しかし、記憶を失い物事の判断がつかなくなったらどうか。自分が訳わからなくなり、人に迷惑をかける。そんな暮らしは考えるだけで恐ろしい。一生懸命に生てきた人生の最後にそんなことになるなんて不本意すぎる。それを思うと、暗澹とした気持ちになる。
これはそんなアルツハイマーに罹ったチリのジャーナリストと女優のその妻のドキュメンタリーである。
アウグストはチリでは有名なジャーナリストである。子連れで再婚した若い妻パウリは女優。出会った2人はすぐ恋に落ちる。その日から愛し合ってきた。
だが、彼を病が襲う。最初は時々記憶が混濁する程度で会話も成り立ち、一緒にピラティスしたり自転車乗ったりしていたアウグスト。
だが病が進むにつれ、妻のことも自分のこともわからなくなり、支離滅裂なことを口にするようになっていく。
彼は知性とユーモアに溢れた温和な人らしい。その証拠にどんな時もそんな気遣いや余裕が感じられる。
ゆえにか、どんな時も穏やかであり、記憶がなくなっても比較的扱いやすい暴れぶりである。よって、アルツハイマーといってもさほど悲惨ではない。それでも見ていてその変化は看破できないほどに辛い。
淡々とした2人の毎日が続く。その合間に過去の映像が出てくる。そこに登場するアウグストもパウリナも若くて大胆で自信に満ち溢れている。老いというものの悲しさを雄弁に物語る。
それでも、それは誰ひとり逃れることのできない運命なのである。