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映画感想文「高野豆腐店の春」昭和という時代のレクイエム。藤竜也の偉大さを知る

昭和という時代へのレクイエム。

まるで、そんな映画だ。

戦争の傷痕残る広島県尾道。商店街にひっそり佇む、昔ながらの製法を頑なに守る、お豆腐屋さん。

店主は愚直で不器用な高野辰雄〔藤竜也)。働き者で気立てのいい娘の春(麻生久美子)が看板娘だ。

出戻り娘の将来を案じる父親は友人達に再婚相手探しを頼むが、なかなかうまくいかない。そしてそんな中、父にも新たな出会いが起こる。

辰雄が商店街の友人達と集い世間話をしたり、何かを企んだりのドタバタは、懐かしの「渡鬼(渡る世間は鬼ばかり)」を彷彿とさせる。

そして頑固親父ぶりは「寺内貫太郎一家」の小林亜星のように、怖いけど時にユーモラスで滑稽だ。

しかしそんな風に昭和のホームドラマに浸っていると、後半に行くにつれ、次第に異なる様相が表れてくる。

原爆を受けた街がどんな風にその後を過ごしてきたか、市井の人である彼らがどのように戦後を生き抜いてきたか。彼らの交わす短いやりとりのひとつひとつから、それらが明かされはじめるのだ。

これがまた、切ない。

声高でもなく淡々と語る姿が、彼らにとってそれが日常であったことを感じさせ、より一層に痛ましい。

まさかの後半で怒涛の啜り泣き(映画館のあちこちで啜り泣き漏れてました)。

「今の人はおかしいと思うかもしれませんが。あの頃はみんなで助け合わないと生きていけなかったんです」など。

書き出してみれば平板な言葉なれど、セリフとして語った時の厚みが、ともかく凄い。

藤竜也の偉大さを悟る。

御歳82歳。いまも主演作が作られ続けてることにしみじみ納得。

そして改めて。多くの人々が懸命に生きた上に今があると、先人達に心から感謝したい気持ちになった。

今年観た中でBest10入り間違いなし。上映館少なく地味だが、非常に心揺さぶる映画だ。

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