映画感想文「国境ナイトクルージング」人生に迷う若者3人の数日の邂逅。人は誰かに影響受け一歩踏み出す
何かにモヤモヤする。八方塞がりだ。
そんな時、誰かとの出会いで不意に背中を押されることがある。
北朝鮮との国境の街、中国の延吉。上海の金融会社に勤めるエリートサラリーマン、ハオファン(リウ・ハウハン)は友人の結婚式でこの街にやってきた。
無事に結婚式を終え、暇を持て余して参加したバスツアーでツアーガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)と出会う。ツアー中に携帯電話をなくしたハオファンを気遣い、ナナはツアー後に地元の友人シャオ(チュー・チューシャオ)との飲み会に彼を連れ出す。
推定年齢25-26歳の男2人、女ひとりの若者3人。いずれも人生を迷ってる。
高い時計を身につけ誰もが羨む仕事に就くハオファン。それなのに、モヤってる。受験戦争から逃れてやっと追い込まれる生活から卒業できると思ってたのに。今度は会社で競争に走らされる日々に息苦しさを覚えていた。
脚に深い傷を持つナナ。それは彼女の過去の痛みだった。かつて夢を描いていた。届きそうだった。なのに、挫折した。その事実から逃れ家族とも関係を絶った。そして妥協して今の仕事を選んだ、やるせない日々を過ごしている。
勉強嫌いのシャオ。16歳で故郷を飛び出した。延吉で店を立ち上げる親戚のつてをたどり、この街にきた。店の手伝いをしながらあとは日がな一日ぶらぶらと暮らしている。何が欲しいのか、何がしたいのか、わからずに彷徨ってる。
若者あるある。いやいや。違う。中高年もあるあるだ。しかし中高年の場合は悠長に迷ってる時間さえない。どんどん消去法で選択肢が自然と狭まっていく。だからこんな風に漂う自由は許されないことが多いというだけだ。
セリフ少なめで目線や態度で彼らの感情を表現するするスタイルがとても良い。変に作為的に誘導されることがない。観た人それぞれが彼らの気持ちに思いをめぐらせることができる。そんな余地のある素敵な作品であった。
人は皆孤独だ。3人でいても自分の問題は解決しない。それでも誰かに触発されることで、それが踏み出すきっかけになることは確かだ。そんな希望の持てる余白のあるラストが好きだ。
人生に迷ってるモヤモヤしてる人におすすめ。