映画感想文「パレード」こんなに優しい世界があったら素敵だ。喪失と再生の物語。
思わず、絶句。
の豪華さ、である。
長澤まさみ、リリー・フランキー、横浜流星、森七菜、坂口健太郎、寺島しのぶ。いずれも主役級の俳優陣。
そして、音楽は野田洋次郎。
Netflix公開の藤井道人監督新作「パレード」。原作は吉田修一。亡くなった後もこの世に未練を残し、残された思いを抱える人たちの物語である。
災害に遭い、海辺で目覚めた美奈子(長澤まさみ)。離れ離れになった息子を探し瓦礫の街を彷徨う。しかし、誰も彼女に気付かない。そんな時に通りがかったアキラ(坂口健太郎)の車に拾われ、とある場所に辿り着く。
観覧車のある空間、そこには不思議な男女が集っていた。
美奈子は息子と再び会うことが出来るのか。そして彼女のこれからは、どうなっていくのか。
主人公の長澤まさみが最も尺が長い。だが他の面々についてもしっかり過去が語られている。少ないエピソードからも、それぞれの人生がしんみりと胸に響く。
その描写が上手い。
だから、ほろりと泣きそうになる。でも、泣かない。というギリギリのラインを突いてくる。
これがこの監督の特徴である。適度な湿り気を熟知している。という感じだ。
そして、才能に加えてスタミナもある。なにしろこのところ毎年、粒揃いの作品を発表している。
「新聞記者(2019年)」
「ヤクザと家族 The family(2021年)」
「余命10年(2022年)」
「ヴィレッジ(2023年)」
「最後まで行く(2023年)」
個人的には、清原果耶主演の「宇宙でいちばんあかるい屋根(2020年)」が好きだ。14歳の少女の揺らぎを余すことなく描いてる良作である。桃井かおりも登場しており、この使い方もとても上手い。
俳優を魅力的に見せるのがうまい監督でもある。
本作でも、長澤まさみは間の取り方から目線の絡め方まで天才的。リリー・フランキーは演じてる初老の映画監督の過去の時代が手に取るようにわかる細やかさ。成仏できないヤクザを演じる横浜流星は、もはや芸術の域の高等演技である(本作の彼は本当にしみじみ素晴らしい)。
この監督の作品はこれからも、ずっと観るだろう。現代のわびさびを表現できる監督だからである。本作もおすすめだ。