映画感想文「タロット・ガーデンへの道」ある女性彫刻家の人生を辿るドキュメンタリー
思わぬ拾い物。
ふらりと仕事帰りに立ち寄った映画館。何の気なしに観た作品が素晴らしいと嬉しくなる。
そんな作品だった。
1930年生まれのフランス人。貴族の娘として裕福に育ち、しかしその没落も経験したニキ・ド・サンファル。若い頃はモデルとして「ヴォーグ」「タイム」の表紙を飾ったこともあるという、美貌。そんな彼女は結婚出産離婚、闘病を経て独学で、彫刻にたどり着く。
女性が抑圧されていた時代。内に秘めた怒りや悲しみが次々と吹き出し、作品として生み出されていった。
初期の作品は射撃アート。なんと真っ白の彫刻に拳銃を向けると、打ち砕かれた場所から中にある絵の具が流れ出していき作品が仕上がるという仕掛け。
拳銃を向け引き金を引くニキの横顔がなんとも美しくもの悲しい。あー、なるほどね。自らも血を流してるような作品作りに胸がヒリヒリと傷む。
そして彼女の彫刻は美術館を飛び出し屋外彫刻へ。徐々に外へと向かっていく。更にその作風は代表作の「ナナ」をはじめとし、カラフルにふくよかになっていった。
彼女の代表作が映画の題名にもなっている「タロット・ガーデン」。20年の歳月をかけ完成した、彼女の作品が集められた彫刻の公園である。イタリアのトスカーナ地方にあり、年間10万人が訪れるという。
春夏しかオープンしておらず一日中5時間しか開かない(作品のメンテナンス時間確保のためにそうなっているらしい)。その条件を鑑みるとかなりの数がきてることになる。
女性性にがんじがらめになり苦しみながらも最後はそれを肯定する作品を生み出し続けたニキ。その生き様は大変興味深かった。
そして、ここにもキョンキョン。
女性アーティストのポートレート撮影でニキと出会った日本人写真家の松本路子監督。彼女に惹かれてこの映画を作り上げた。そしてその松本監督のオファーでナレーションとエンディングの歌を担当した小泉今日子。
感度の高さが凄い。見応えありのドキュメンタリー作品である。