映画感想文「リトル・リチャード」ロックの歴史がわかる秀逸なドキュメンタリー
この映画で初めて知った。
リトル・リチャードの存在を。
これはロックンロールを始めた人と言われる、彼のドキュメンタリー映画だ。
1932年米国ジョージア州メイコン生まれ。
黒人でゲイ。当時の社会ではとても生きつらかったはず。それでも彼は自分のアイデンティティを曲げずに主張し続けた。
1950年代、華があり、音楽の才能に恵まれた彼は、歌手としてデビューし、活躍する。アイラインを引いて真っ赤なルージュを塗り、化粧をしてロックの前身である魂の叫び、を奏でた。
1970年代、デビッド・ボウイをはじめ、ロンドンでグラムロックが流行るより随分前のことだ。
Beatlesはデビュー前に彼と公演。ボールは彼からシャウトを学んだと語ってるし、ジョン・レノンは畏敬の念を抱くあまり初めて会った時、喋ることができなかったという。
ミック・ジャガーは「ロックンロールを始めたのはリトル・リチャードだ」とくしゃりとした笑顔で語り、エルビス・プレスリーも「リトル・リチャードはロックンロールのキングだ」と断言してる。
何者なんだ?
とロックに、詳しくない私は戸惑う。
そして、登場する、生前の彼のコンサート映像、テレビ出演映像での姿。また多くの彼と親交のあったミュージシャンや関係者のインタビュー。それらの映像を見て、少しずつ彼のことを知る。
同性愛者であることで父親に疎まれ愛に飢えていた子供時代。デビューしてまもなくエネルギッシュなステージがもてはやされ、あっという間にスターになったこと。
その父を早くに亡くし、たくさんの兄弟と母親の生活を背負っていたこと。
しかし絶頂期に引退。大学に入学。神学をおさめ牧師になったこと。ちなみにその時はロックを捨て、でも音楽からは離れられず、ゴスペルを歌っていたこと。
あの時代にあの場所で、宗教に縛られた教育を受けた彼が、自らのアイデンティティとの間でかなり苦悩したであろうことが推察される。
しかし、結局1962年にロックシンガーとして復帰。その時デビュー前のBeatlesが、そのステージの前座だったこと。
確かに、彼の人生はロックの歴史だ。そして、改めて、ロックとは虐げられたものの怒り、祈り、から生まれているのだとルーツを悟る。
ロック好きなら必見。それ以外の人でも楽しんで見ることができる、興味深いドキュメンタリーである。
彼は今の時代でいう、0→1(ゼロイチ)の人、だったんだろう。
創始者なくして始まらない。しかしその後の発展はたいていが創始者とは異なる者たちによって成し遂げられる。そう、1→10(イチジュウ)の人たちだ。
どちらも偉大だしそれぞれの役割がある。
でも昔のゼロイチの人は今より報われなかったんだろうなというのはわかる。そんなビジネスのセオリーに照らし合わせ、しみじみ考えさせられた作品でもあった。
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