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映画感想文「港に灯がともる」阪神淡路大震災から30年、ある家族の再生の物語
いつもご機嫌でいる。
それがいちばん大切なことだと、しみじみ思う。
だって、不機嫌や不幸は知らぬ間に伝染するのだ。それがよく理解できる作品である。
阪神淡路大震災の翌月に産まれたあかり(富田望生)。家族は神戸市長田区に住む在日韓国人。彼女は在日3世だ。
苦労して異国の地、日本で生活基盤を築いた祖母。就職差別に苦しみながら事業を興し建てた工場を震災で無くした父(甲本雅裕)。
苦労した親世代には出自に対する怒りや葛藤が溢れ、いつもご機嫌斜めだ。父は苦労を知らずに育ったかのように見える子供たちが許せない。会えば子供達に説教ばかりする。
そんな父は当然自分の不幸に精一杯で妻を思いやるゆとりはない。だから、取り残された母(麻生祐未)はいつも寂しくひとりぼっちだ。
その母の不幸は子供達にぶつけられる。あなたの出産の時、どれだけ私が大変だったか。どれだけお父さんはなにもしてくれなかったか。いかにひとりで頑張ったか。
幼い頃からそんな両親の怨念を聞かされてきた子供に、澱のようにたまっていく父母の負の感情。
ある日、あかりは会社に行けなくなった。精神的な病を煩いなにも手につかなくなってしまったのだ。自分の感情を説明できず、ただただ、泣き叫ぶあかり。
一方で、産まれた時から日本人として育った姉(伊藤万理華)は合理的だ。いや、いつも感情的にぶつかり合う両親の呪縛から逃れる唯一の手段が合理的になることだったのだ。そんな彼女は日本への帰化を考え始める。
出自を憎みながらも子供が日本に帰化することを裏切りと捉える父。そんな呪縛から逃れようとする子供たち。
痛いほど理解はできる父母の悲しみ。そしてそれを重荷に感じる子供たちの葛藤。どちらもわかる。
それでも、どこかで誰かが断ち切らないと、怒りや悲しみのマイナス感情は先の世代へと延々と引き継がれてしまう。
三人兄弟の末っ子の弟を演じた青木柚の出番が少なかったのが残念。という点だけが惜しまれるが、なかなかの力作。
主演の富田望生がほぼノーメイクで泣いたり叫んだり、幸せそうに笑ったり、八面六臂の大活躍。特に、最後の方の長回しの父との電話のシーンは観ている方も熱くなる快演である。
震災から30年後のいま、観るべき作品だ。