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映画感想文「東京カウボーイ」井浦新主役の米国映画。単身異国に乗り込む主人公の変容が見どころ

やっぱり、うまいな。と唸った。

井浦新を主役に据えた時点で成功。この人は人間の弱さを表現するのがめちゃくちゃうまい。どの作品を観てもそう感じる。これは天賦の才だと思う。

そして脇役の國村隼。この人も凄い。何しろ人間のやらしさを嫌味なく表現できるところが秀逸。腹黒さを表に出しても嫌いになれない。人間たらし的な才能。

ふたりの演技と設定の新しさで、シンプルなストーリーながら魅せる。

食品メーカーで働くヒデキ(井浦新)。ランチも路上で立ち食い、電車の中でもパソコンに向かう仕事人間。

次々と企業買収案件を決めるやり手。に見えるが死角あり。上司から「もっと人を見ないと」と注意されるように、人の気持ちの機微に鈍感なタイプである。

実は上司であるケイコ(藤谷文子)は彼の婚約者である。が、彼女との将来設計にも、なんだか熱が入らない。

要するに、仕事にプライベートに充実してるように見えて実はどれも中途半端でうまく噛み合っていない。

そんな彼の次の仕事は、会社が買収した米国モンタナ州の牧場の企業再生。周囲の反対を押し切り、ヒデキは売却ではなく和牛ビジネスを始めることを提案する。そして和牛の専門家である和田(國村隼)とともに現地に乗り込む。

しかしそこで待ち受けていたのは、言葉の通じない文化も異なる人々。さて、ヒデキはどうやって立ち向かうのか。

という「日本のビジネスマン、単身で異国に乗り込む」的な、ありがちなお仕事物語。

しかし、それを陳腐に感じさせないのは、前述したようにふたりの演者の的確な演技力とケイコの存在である。

井浦新の役は「無意識の不誠実」がテーマだったりするのだが、仕事もそうだがケイコとのプライベートにおいてそれは発揮される。善意の人間の無意識の不誠実。それはもう残酷極まりない。

そこだよ、本当に。と言いたい女子は多いと思う。その設定の捻りがよく効いている。

ケイコ役の藤谷文子。どこかで見たことあると思ったらスティーブン・セガールの娘、10代でアイドル女優としてデビューした彼女であった。30年ぶりにスクリーンでみて懐かしかった。渡米し現地で結婚。子育てもはさみ、キャリアを繋いできているという。本作の共同脚本者としても名を連ねている。

長年女優一筋でやってきた俳優に比べればいろいろ不足はあるが、それでもこのケイコ役は彼女で良かった。彼女の持つある種のこなれない感じ、硬さが、ケイコ役には必要だったと思うから。ナイスキャスティングである。

監督も製作も米国メイドの作品。日本人俳優がこうやって活躍していることは喜ばしいことだ。

上映館少ないこともあり、私の観た回は満席であった。人間がいかに変容を遂げていくかを希望を持って語る作品。みて損のない良作である。オススメである。

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