映画感想文「風が吹くとき」静かな反戦映画。じわじわと恐ろしいリバイバル上映
じわじわと恐ろしさが忍び寄る。
そんな映画だった。いまも怖い。
1980年代のイギリス郊外に住む老夫婦。ジェームズとヒルダ。
仕事を引退して安穏と暮らす彼らに戦争の知らせが届く。第二次世界大戦を経験している2人。だが今回の戦争は前回とは異なり、核戦争だった。
政府のパンフレットを元に、核戦争に備えて自宅にシェルターを作るジェームズ。戦争なんて他人事だと呑気に構え、家事に忙しいヒルダ。普段通りの日常を過ごす老夫婦。
そして突然、それはやってくる。シェルターに逃げ込んだがそんな素人の作るシェルターでは核からは逃げられない。
外傷はなかったが、日を追うに連れ段々とやつれてくる。身体中に斑点が出て、疲れやすくなる。食欲はなくなり目はかすむ。身体中から出血。そして立ち上がれなくり寝たきりになる。
目に見えないのに身体を蝕んでいく核の恐ろしさよ。
ほのぼのとしたアニメーション。絵柄もほんわかとしてて夫婦の物腰もあったかい。まるで何もなかったかのような淡々としたほのぼのさの中に徐々に忍び寄る破滅。
しかも、夫妻が最後まで何も疑わず愚痴も文句も言わずに仲良くしているのが辛い。こうして市井の人々の人生は翻弄されていくのか。
これはいやだ。こんな風に騙されないぞと思う。
でも、ふと、どうなんだろうという疑問もよぎる。夫妻がもし核の知識があり政府を疑ったとしても、どうすればよかったんだろう。戦争を避けることなんてできない。突然始まったところで逃げる場もない。
結局は、こんな風な結末を迎えたのではないか。であれば怒りや嘆きをすることもなく最後まで日常を続けたことが間違っているとも言えない。
いや、むしろ幸せだったのかもしれない。とさえ思える。
いずれにせよ、国家が起こす戦争の前に市民は無力であることが切なく自覚できる作品である。
日本語吹き替えを担当した、今は亡き森繁久弥と加藤和子の声の表現力が素晴らしく、より恐ろしさを感じた。やはり名優である。