映画感想文「糸」30年前の中島みゆきの名曲がテーマにぴったりで泣ける
13歳の時、初恋の人の手を離し守れなかった自分に忸怩たる思いを抱き大人になった、菅田将暉演じる漣。
親に恵まれず育ち、手を繋がれる方ではなく繋ぐ方になりたいと決意し大人になった、小松菜奈演じる葵。
北海道の美瑛に生まれ育った平成元年生まれ男女の30年の軌跡を描いた作品。
テーマは凡庸。二時間におさめる為か脚本の無理も散見されるが、なんと言っても女優二人の熱演が大変素晴らしい。
まず、小松菜奈。
故郷美瑛から東京、沖縄、シンガポールとそれぞれの地で、自分の手で幸せを掴み取ろうと、懸命に生きる。ままならぬ中でも毅然と進む姿が印象的であり、颯爽と歩く様、すっとした立ち姿など、いずれのシーンも佇まいが美しい。
更にシンガポールで失意の中、カツ丼食べるシーンは必見。限りなく切なくいとおしく、様々な感情を観てる者の胸に呼び覚ます。 これは渾身の名シーンだと思う。
また、漣と出会う職場の先輩を演じる榮倉奈々。
華やかな葵とは異なり、美瑛の地で根を張り等身大に目の前の幸せに生きる姿が、こちらも力強く、強い印象を残す。その迫真に迫る演技は涙を誘う。
誰かを守りたいという気持ちは尊い。それは、生きる原動力にもなる。
しかしながら、人は誰しも根っこのところは自分の脚で歩みたい生き物だ。彼らが出会う人々とのエピソードがそれを雄弁に物語る。
それでも、人は誰かと共に支えあい、生きていく。
そんなことを思ったエンドロール。今まで出会った人達の顔が去来し、胸がいっぱいになった。