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映画感想文「美晴に傘を」大切に心の奥底にしまっておきたいような味わい深い作品

大切なことが全て詰まってる。

それでいて説教くさくない。静かにするすると、染み入るような作品だ。

北海道稚内の港町で1人暮らす、漁師の善次(升毅)。親1人子1人の息子とは、何十年も前に喧嘩別れしたきりだ。

そんなある日、和解せぬまま遠くに暮らす息子が亡くなってしまう。

悲しみに暮れる善次。

そこに当然、会ったことのない息子の家族が現れる。嫁の透子(田中美里)、娘の美晴(日髙麻鈴)と凛(宮本凛音)の3人だ。

長女の美晴は自閉症で音に過敏。20歳になるが、母や妹に守られ暮らしている。宝物は父が残した絵本。辛いことがあると絵本に逃げ込む。

夫を亡くしても気丈に振る舞う透子。しかし、本当は障がいを抱える娘を1人で支えなければと不安と孤独でいっぱいだった。

雄大な夏の北海道の景色の中、大切な人を亡くした家族のそれぞれが、自分のペースで少しずつ、再生していく物語。

派手なことは何も起こらない。それでも毎日同じ少しず、変化が起こっていく。ほんとうに小さな、でも大切な一歩を踏み出していくこの家族を、心から応援したくなる。温かい等身大の映画。

升毅が寡黙な漁師の心の揺れを丁寧に演じて好演。また田中美里の生来もっている明るさと丸さが作品に暖かさをもたらしている。娘2人も非常に好演。これからが楽しみな女優さんだ。素敵な作品に出会えたことに感謝したい。

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