映画感想文「氷の花火 山口小夜子」黒髪&アーモンドアイで世界に挑んだ日本人の物語
その人が出てくると、テレビに釘付けになった。
美しいという言葉をまだ知らぬ幼い頃のこと。
日本人モデルの先駆け、山口小夜子。資生堂のミューズとしてコマーシャルに登場する彼女は、神々しさに満ちていた。子供には表現する言葉が見当たらなかった。
彼女の友人であった松本貴子監督が、生前の彼女と共に仕事をしたメイクアップアーティスト、カメラマン、デザイナー、舞踏家、音楽家などに取材し作り上げたドキュメンタリー映画。
東洋人らしい切れ長の目が特徴的だった彼女の目は、実は欧米人のようなぱっちりとした丸い目であったこと。
いつもたくさんの本を読み、アングラの小劇場に至るまでくまなくチェックし、どんな低評価の作品からも良いところを見出し学ぼうとしていたこと。
晩年は名もなき若手アーティストと組んで新しいチャレンジを続けていたこと。
神々しさの影にある、地道な積み重ねが語られる。
いつまでも、若々しく女神のような姿のまま、50代での突然の訃報。
それでも、彼女を悼む人々が作り上げた愛の溢れる本作をみれば、彼女の生き方が豊かであったことがしみじみわかる。
デビューは日本が元気を失っていた70年代、オイルショックの年だという。パリコレなど海外のステージで輝く彼女の姿に、多くの人が勇気付けられたに違いない。
日本人のアイデンティティが世界に通用することを証明したひとりの女性の物語。
確かにそこに生きていた真実ほど心を揺さぶるものはない。だからドキュメンタリーが好きだ。