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映画感想文「オン・ア・ボート」結婚てなに?を痛快に描く32分間。演者の巧みさが心地よい
いやあ、どっちの気持ちもわかるわ。
と思った。めちゃくちゃ充実のショートフィルム。
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かつてはボートに乗って、怖いものなしで仲間と自由に生きてたさら(松浦りょう)。だが今は、郊外の一軒家で余裕のある暮らしを提供してくれる年上の夫(渋川清彦)と結婚。自ら望んだ幸せな専業主婦生活を送っている。
夫は綺麗好きで仕切り屋で鼻持ちならぬところもあるが彼女に豊かな暮らしを提供してくれる、王子様であった。
その家庭に訪れる、さらのかつての仲間えだまめ(山本奈衣瑠)。これがまた自由奔放すぎて、さすがに常識ないよねとクレームいれたくなるレベルで笑える。
冷蔵庫を勝手に開けて飲むわ食べるわ、鍋の中のシチューに自分が食べかけのパンを突っ込んで汁を吸わせるわ、勝手に自分の友達を何人も引き連れてくるわ、まあ、やりたい放題。
そんな彼女をみて夫はイライラし追い詰められていく。そしてキレる。一方で妻のさらは、かつての自由だった自分を思い出し、今の生活に疑問を抱き始める。同様にキレる。
まあ、自分が夫でも、体面を重んじて当日はここまでは切れないものの、こんな来客はいくら妻の友人でも、次から来ないでと心から願うレベル。
また、自分が妻でも、自由に振る舞える友人を前に、いまの生活の不自由さを憂いて後で夫に当たり散らすと思う。
ということで、どっにも、そうだよねと思う。
でも、肝心なのはこの後だ。
これがこの夫婦にとって、お互いを分かりあうスタートになるのか、決定的な溝を生み後世に禍根を残すのか、わからない。どっちになるかは観る人に委ねられる。
これを観て、結婚っていいなと思う人もいれば、結婚って嫌だなと思う人もいるだろう。
少なくと感じたのは、何かを得たら何かを捨てないとならないということ。誰しもそんなボートの上にいる。積める荷物の重さは限られてる。もしかしたら両方を手に入れる方法もあるのかもしれないけど。
たったの32分間で、そんなことをしみじみ突きつけられるのが、素晴らしい。
そして3人の演者がいずれも秀逸の演技。というか、そもそもキャスティングが最高だ。
下北沢でしか上映してないがもっと多くの映画館で上映してほしい。そしてこの手のショートフィルムがYouTubeの20分間ひと番組に慣れた現代人には心地よく、もっと広まってほしいと願う。
映画好きだが2時間はもはや長いと感じる今日この頃である。そんなこと思ってるのは私だけなのだろうか。