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映画感想文「あるいは、ユートピア」逃げ遅れホテルに閉じ込められた12名の心理劇が興味深い

ただ、生き延びる。

そこには何の雑念の余地もない。そして、何者になる必要もない。だって、非常事態なのだから。

一見絶望的なその状況。それは同時に安堵をも生む。

そんな人間の矛盾をまざまざと見せつける本作。

俳優陣の好演で最後まで緊張感が続き、食い入るようにスクリーンに見入った。

特にメインキャラクターである、藤原季節、渋川清彦、吉岡睦雄の3人が好演。

多くの作品にでてる藤原季節、彼の持ち味を活かした、なかなか繊細な演技であった。こういう陰ある役が似合う俳優さんだ。

そして渋川清彦。本当に何やらせても思わず唸るほど、うまい。本作でも気持ちをざわつかせる不思議な人物を演じ、それがまた妙に説得力あり。凄い。

更に、初めて認知した吉岡睦雄。ググったら多くの作品に出ているベテラン俳優さんであった。自分の無知を反省する。めちゃくちゃ良かった。

また、どの作品に出てもそこに柔らかさを生む、原日出子。うまい下手以前にこの人の稀有な存在感が、とっても好きだ。ひりひりとした場面にも隙間を作ってくれる得難い女優さんだ。

巨大生物の襲撃によりみなが避難してしまった世界。ホテルに残されたのは、逃げ遅れた12名。

もともとそれぞれ事情を抱え、ホテルにやってきていた。突然襲ってきた緊急事態。避難勧告のなか、必死に生き延びる選択を即決できなかった訳アリの人たち。

悲しいのに、笑える。そんな切なさとユーモアが混じり合う語り口調で彼らの絡みを描く。閉じ込められた小さな世界で、互いをぶつけ合い変化していく様がとても興味深い。

突拍子もないのにさもありなん、な人間模様を映像化したキム・ユンス監督の手腕が光る。

日比谷で開催中の東京国際映画祭で視聴。11/16-11/29の2週間、渋谷ユーロスペースで公開予定。

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