映画感想文「逃げ切れた夢」光石研を愛でる映画。定年前の惑いに胸が痛む
光石研を観るための映画。
地方都市で定時制高校の教頭を務める周平(光石研)は、定年を前に人生に惑う。
家では妻との仲はとうに冷え切り、娘は父親をばい菌扱いし目も合わせようとしない。物忘れがひどくなり定食屋で支払いを忘れ店を出たりと健康面もなんだか危うい。
一生懸命にそれなりに生きてきたはずなのに。なぜこんなことになっちゃったんだろう。俺、いままで何してきたんだろう?と我が身を振り返る60前。
あまりにもどこにでもありそうな話で胸が痛い。
しかしそこは光石研。
最初は生徒思いで仕事熱心な熱血先生に見えるのだが、だんだん悪さや狡さが滲みでてくる。そこがエグい。
この人のすごいのは、これだ。
人の良さそうな小市民の顔の裏に、人間の汚さや悪をも滲ませることができる。なんだか怪しい感じ。そう、決して悪役ではないのだがグレーな役。
テレビドラマになるが、吉高由里子と松下洸平の好演が印象深い「最愛」の父親役とかが印象深い。
なんだか2人でご飯に行くのが怖いような怪しさがぷんぷんしてるのだ。
本作に幼馴染として登場する松重豊が、何を演じてもいい人に見えるのと対照的だ。
こういう滲み出るものって、無理やり演じるのは難しいだろう。よって、結局は持って生まれた個性ではないかと思う。
だから、きっと。好むと好まざるとにかかわらず、自分の持つ個性を最大限活かせる人が活躍できる。俳優さんたちを見ていつも感じる。
教え子を演じる吉本実憂、相変わらず安定感ある妻役の坂井真紀も良かった。