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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2020年6月の記事一覧

新しい宿それは黒い霧の中

セメントに

足をとられて幾星霜

あなたのためのレリーフに

なって一旗上げたいと

りんごを捨ててやってきた

あの木と私とどちらが先に

朽ちるか散るか食われるか

恋物語はどうやら先に

化石となって葬られ

残る我らが身の不憫

朽ちるか散るか食われるか

悠久などとあられもない

千年と

3日回って三月の

日暮れに香る沈香を

辿って出会う粗忽者

さて洒落込んでどこへ行く

もう会わないと言ったのが

星より遠いあの日なら

きっと忘れて手を取って

あぁ、染め抜きの手拭いが

私の頬を拭うまで

あと数秒で世界が寝込む

赤色のレール伸びて沈む

きなりの服を染めた赤

赤々と伸びる夕焼けの陽

閃光が飛んで

どうと出る

風も吹くやら吹かぬやら  

荒川の土手で見た影に

追われて問うて蹄鉄の

音を聞いたと思ったが

それも幻

工場の子

遠くの煙突の煙に母慕う

夕餉の湯気の恋しくて

ねぇ父ちゃん

僕いつかここを出て行けるかい

ねぇ父ちゃん

2人でここを出られるかい

いつか乾くか背中の牡丹

ねぇあんた

私の髪をといておくれでないかい

もう私には夢もない

金もなければ愛もない

私の唯一の自慢のさぁ

私の髪をといておくれでないかい

そのつげの櫛で別れをつげて

それでおしまいそれまでよ

惨めな思いはさせないでおくれな

夢も金も愛も無くてもさぁ

人って生きるもんだねぇ

性懲りもせず腹を空かせて

だれかの腿にまた手を当てて

しんねりしなをつくるのさぁ

あんた、私のた

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屈んで落ちて

めぇめぇ羊に

ベェベェ山羊さん

寄らず計らず

迫りくる

微笑みの声

先行投資

右斜めから双剣の

股の間のセントラル

銘々集めて東京の朝

段ボールの底から

にゃあと鳴き
3日目の夜諦めた

僕と君とは
君と僕とであれやしない

バターの匂いのする君と
珈琲色の僕とでは

混ぜて混ざらぬ
ツルゲーネフと椿姫

金色夜叉をなぞらって 
君は僕を捨てたらいい

月夜の晩に捨てたらいい

今月今夜のこの月を
僕は忘れてしまうだろう

ミルクの香りに誘われて
あぁにゃあにゃあとまた鳴いて

君のことなど忘れるよ

君のことを忘れても
バターは僕を起こすだろうか

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キュウキュウとプゥ

キュウとプゥとで走ったよ

赤い靴点々とどこまでも追いかけて

小さな膝に噛み付いて

ケタケタホゥと声上げて

2人で走れば

風神雷神怖くもないさ

ねぇでもプゥ

君はいつの間にか

ずいぶん大きくなったねぇ

その身体では

もう走れないかもしれないね

もう飛べないかもしれないね

でもプゥ

僕は君を置いて行ったりしないよ

真っ黒でボタボタとした君を

どこへもやったりしないよ

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月夜の和尚さんが言うことにゃ

食う寝る遊ぶは一つのことよ

トントン隣の和尚さんが

月指差して言ったとな

あれこいさん行儀ようせなあきません

あんさんもいずれ帰りはる

月夜の晩にはまんまるの

毬などついていらっしゃれ

帰り道にゃ迷わぬように

テンテン手毬と歌うていれば

やがて迎えも来らっしゃる

テンテン手毬とこいさんの丸いほっぺと青い月

戸棚の奥に秘して遠く

なんでも口に入れてはいけないよ

そう言ってあなたは優しく精悍な手でドロリとしたそれを私から取り上げて

清潔で安全な退屈を手渡す

雲散霧消

キンキンと光る水曜日

流れる雲の速さに驚いて

キツツキも我を忘れる金曜日

暗澹たる土曜日と日曜日

桜の葉もかげる粘膜

ツクロウ

電球の下で繕い物をしてるあなたが見えたと思ったの

でも違った

それは似ても似つかぬあの人だった

針と糸で縫い付けているのは繕い物ではなく

わたしの恋心だった

出血多量の恋心は

余命幾ばくもなく死んでいく

あわれ惨めなあの人は

必死に取り繕って抱きしめる

迷子のおさなごのように

おろおろ、おろおろ

泣きじゃくる

どうしてだろう

私の視界が歪んでく

どうしてだろう

私の喉

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赤いベロアのスツールで

しおりの脚を3回撫でて
もういらないと呟いて
ウィスキーをロックであおったら
どこかの風が椅子の下を通った
猫も知らない夜中の話

夕暮れの密室

コノワタとお銚子で

涙の出窓が閉まらない

はめ殺しになっていたからねとおかみさんが言う

通りがかりのイグアナが決まり悪そうに隣に座って舌をチョロリと出した

曇り空にはコールテンのズボンが侘しい