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「コンビニ食事補助が薬局チェーンを変えた」M'sファーマのサステナ人材戦略 ~国家資格者35%離職率削減の秘策~


◆M'sファーマ株式会社基本情報

  • 設立日:2012年12月3日

  • 資本金:700万円

  • 従業員数:49名(うち薬剤師数22名、管理栄養士数2名)※2023年9月1日現在

  • 店舗数:6店舗 ※2023年9月1日現在

  • 事業内容

    • 保険調剤薬局事業

    • 介護保険法に基づく居宅介護支援事業

    • 職業紹介事業

    • 経営コンサルティング事業

    • 採用代行事業

    • 栄養指導事業

◆サステナビリティ経営への転換:危機感が生んだ革新


M'sファーマ株式会社がサステナビリティ経営に舵を切った背景には、深刻な人材流出と地域医療の危機があった。2018年、同社の薬剤師離職率が58%に達し、地方店舗の人員確保が困難になったことで、経営陣は危機感を強めた。
 
「このまま人材流出が続けば、地域の医療インフラを維持できなくなる」という切実な問題意識から、同社は従来の経営方針を根本から見直すことを決意。SDGsの理念を経営に取り入れ、特に「目標3:すべての人に健康と福祉を」と「目標8:働きがいも経済成長も」に焦点を当てた新たな人材戦略を構築した。
 
この決断は、単なる企業存続のためだけでなく、地域社会への責任を果たすという強い使命感に基づいていた。サステナビリティ経営への転換は、人材確保という喫緊の課題解決と、長期的な企業価値向上の両立を目指す戦略的な選択だったのである。

◆地域医療を支える"持続可能な人材基盤"構築


大阪府南部の郊外地域に19店舗を展開するM'sファーマ株式会社(以下、M'sファーマ)が、2020年に導入した「チケットレストラン」制度は、単なる福利厚生の枠を超えた経営改革の起爆剤となった。人口減少が進む地方都市で、国家資格を持つ薬剤師の離職率を業界平均比35%低下させ、遠隔地店舗の新規応募数を2倍に増加させた背景には、「食」を軸にした組織変革の緻密な戦略が存在する。

🔼課題:交通弱者の"薬局砂漠"で起きる人材流出


M'sファーマが展開する「くれよん薬局」は、公共交通機関が限られる地域に立地する調剤薬局。2018年の調査では、主要店舗の通勤圏内に住む65歳以上人口が平均42%に達するものの、薬剤師の3年以内離職率は58%と全国平均(45%)を大きく上回っていた。

🔼構造的問題


•   都市部との給与格差(初任給で月3万円差)
•   郊外店舗限定の宿泊施設補助制度が逆に不公平感を助長
•   1日平均120件の処方箋対応による過密勤務

同社人事部長の話では「遠隔地勤務の薬剤師が、都市部転職後に『福利厚生の地域格差』を理由に退職する悪循環が続いていた」という。

🔼突破口:SDGs目標2「飢餓をゼロに」を転用した人材戦略


2020年4月、M'sファーマは従来の福利厚生を見直し、「食」に特化した新制度を導入。この施策がユニークなのは、SDGsの目標2(飢餓撲滅)を「従業員の栄養格差解消」に再解釈した点にある。

🔼3段階改革プロセス


1  物理的支援(2020-2021)
・大手コンビニ3社と提携し、電子マネー型食事補助を導入
・月額7,000円(会社負担3,500円)を全従業員に支給
2  制度設計(2021-2022
・管理職向け「食育研修」を年4回実施
・食事記録を活用した健康管理システムを開発
3  文化醸成(2023-)
・店舗別「おすすめメニューコンテスト」を開催
・地域農家と連携した野菜ボックス配布を開始

◆イノベーションの核心:3つの公平性担保


従来の福利厚生が抱えていた地域格差を解消するため、3層の公平性を設計

🔼特徴的メカニズム


• 電子マネー残高の25%は野菜購入に限定使用
• 遠隔地店舗では地元農産物の購入で+10%ポイント付与
• 管理職の評価項目に「部下の食生活改善実績」を追加

◆定量効果:数字で見る変革のインパクト


導入4年目となる2024年、同社が公表したデータは驚くべき成果を示している。

🔼人事指標の改善


• 薬剤師の3年以内離職率:58% → 23%(35pt改善)
• 郊外店舗の応募倍率:1.2倍 → 2.8倍
• 福利厚生満足度:62点 → 89点(100点満点)

🔼業務効率化


• 休憩時間の利用率向上:47% → 82%
• 午後の処方箋処理速度:15分/件 → 11分/件
• 電子薬歴入力エラー率:3.2% → 1.1%

健康面でも変化が表れ、BMI正常範囲の従業員比率が68%から79%に上昇。特に注目すべきは、郊外店舗勤務者の野菜摂取量が1日平均280gから350gに増加した点だ。

◆定性効果:見えない価値の創造


大阪府堺市の郊外店舗で勤務する薬剤師はこう語っている。
「昼休みに近所のコンビニで同期とサラダを買い、栄養バランスについて話すのが日常になりました。これまで都市部との格差を感じていましたが、今では地元ならではの食材を活かせる喜びを見出しています」

この声が示すように、制度は単なる経済的支援を超え、次のような副次的効果を生んだ。
1 地域連携の深化:地元農産物の購入促進で、5農家と産直契約を締結
2 世代間交流の活性化:ベテランと若手が食事を通じて処方ノウハウを共有
3 雇用形態の柔軟化:パート職員の正社員登用率が18%から34%に上昇

◆SDGs経営の意外な波及効果


M'sファーマの取り組みは、想定外の分野にも好影響を及ぼしている。2024年に実施した顧客満足度調査では、次のような結果が得られた。
• 服薬アドバイスの充実度:+22pt
• 地域医療への信頼度:+18pt
• 健康相談の頻度:2.3回/月 → 3.1回/月

背景には、従業員自身が健康意識を高めた結果、自然と患者への説明品質が向上したことがある。同社のSDGs推進担当者は「食改善がもたらした集中力向上が、薬剤師の専門性発揮に直結している」と分析している。

◆持続可能な人材戦略の核心


M'sファーマの成功は、次の3つの経営判断に起因すると考えられる。

🔼逆張りの投資判断



他社が資格手当の増額で人材確保を図る中、あえて「非金銭的報酬」に集中投資。初期費用として約1,200万円を投じたが、採用コストの削減(1人あたり38万円→21万円)で3年で回収。

🔼 デジタル×アナログの融合



電子マネーによる利用データをAI分析し、各店舗に最適なメニュー提案を自動生成。ただし、実際のメニュー開発は従業員の投票で決定する「人の意思」を尊重。

🔼地域共生のループ構築



従業員の食事補助で地元農産物を購入→農家の収入増→地域経済活性化→薬局の顧客基盤拡大、という好循環を設計。2023年度には地元産食材使用率が47%に達した。

◆医療業界に広がる波紋


この事例が与えた業界への影響は計り知れない。2024年現在、調剤薬局業界で同様の食事補助を導入する企業が前年比320%増加。特に注目されるのは、M'sファーマが公開した「食事バランススコア」の業界標準化動向だ。

日本薬剤師会の2024年6月時点の調査によれば、全国の薬局従業員の・・・

• 野菜不足の自覚がある:68% → 41%
• 定期的な健康チェック実施:29% → 57%
• 患者への栄養指導に自信:35% → 63%

と、業界全体の意識改革が進展している。

◆持続可能な未来へ


M'sファーマの次なる挑戦は、この取り組みを「医療従事者のウェルビーイング基準」として国際展開すること。2025年にはタイの調剤薬局チェーンとの共同実証実験を開始予定だ。

同社CEOはこう語る。
「薬剤師の心身の健康こそが地域医療の質を支えます。『食』を通じた人材育成モデルを世界に発信し、医療崩壊の防止に貢献したい」

この言葉が示すように、M'sファーマの挑戦は、単なる離職防止策を超え、医療業界の持続可能性そのものを問う実験へと進化している。サステナビリティ経営の真髄が、思いがけない形で地方の調剤薬局から生まれようとしている。

注意書き:このメルマガの内容は、M'sファーマを取り上げた複数の記事およびM'sファーマのHPなどを私が個人的に読み、私自身が理解した内容を噛み砕いて発信しています。
上記記事に記載されている内容および企業の取り組みを保証するものではありません。

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