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純喫茶リリー

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「純喫茶リリーへようこそ。 懐かしくてちょっとビターな日常を綴ります
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#純喫茶リリー

30. なぜか晴れない、お父さんとの日曜日 /純喫茶リリー

律子が小学校に上がってからも、東京で単身赴任中のお父さんは、月に1度ほどしか家に帰ってこなかった。 帰ってくると、律子に勉強をさせたり、たまに公園に連れて行ったりした。 そして必ず学校の成績を聞き、「俺の娘だから、お前が勉強できるのは当然だ」と、自慢げに言いながら、期待の目を向けていた。 律子は成績を褒められるのはうれしかったが、お父さんに勉強を教えてもらうのはうんざりだった。 ある日、お父さんは「東京のお土産だ」と言って、ローラースケートを買って帰ってきた。近所の誰も持っ

29. 置いてけぼりの知らない世界 /純喫茶リリー

小学校に上がってから、律子は朝は自分で起きなければならなかった。 ママは律子が起きるより先にリリーに行ってしまうので、 よく寝坊して、顔も洗わず歯も磨かず、髪の毛もボサボサのままで登校することも多かった。でも、律子はぜんぜん気にしなかった。 歯を磨いてないことくらいバレないだろう、顔も洗ってなくてもバレないだろうと。 髪の毛だって、クラスのぶりっ子の女子は三つ編みしたり、リボンをしていたり、女っぽくしてて、むしろそういったこをとしないのが「ぶりっ子じゃない」証明で、律子なりの

28. 小さな逃げ道、爪を噛む癖 /純喫茶リリー

気がつけば、律子にはいつの間にか「爪を噛む癖」がついていた。 そのきっかけは、けやき保育園の最後の日、先生がみんなの前で「今日が最後だよ」と話してくれたあの時だ。 みんなが律子をみていた。先生の話を聞いてる時、自分のことを言われているのだけど、褒められている感じではなく、ただ注目されている。 その妙な焦燥感と居心地の悪さに、律子はいつの間にか右手の親指の皮を引っかいていた。 顔は先生の方を向いているけど、意識は親指に集中していた。 気づいた時には皮をむしりすぎて血がにじん

27. 前のめり空回り/純喫茶リリー

ゆりこちゃんと出会う前の律子は、楽しそうなクラスメイトの輪から外れて、でも羨ましくて。どこか疎外感を抱いていた。 いつの間にか、そんなクラスメイトに敵対心を抱き、負けん気が強くなっていた。 周りに「すごい!」って言われたくて、授業も張り切って、 目立つことに一生懸命。 やたらと手をあげて、大きな声で先生に話しかけ、ついでに余計な一言まで加える。お調子者の目立ちたがり屋だ。 それもこれも、喫茶リリーで、いつも大人の話に首を突っ込んでいたからだろうか? 授業中でも私語が多く

26. 初めての友達と放課後の自由の味/純喫茶リリー

「清楚」という言葉をほしいままにしているゆりこちゃんが ある日の休み時間に、穏やかな笑顔で律子に話しかけてくれた。 とても可愛くて、長い髪が綺麗で優しい女の子。 律子には天使に見えた。 妬み嫉みでいっぱいの律子。 ふりふりしたスカートを履いている子は「ぶりっこ」だと思って心の中で毛嫌いしていたのに、ゆりこちゃんにはそんな感情は少しも湧かず、好感しか得られなかった。 ぶりっこではなく、生まれながらにしての清楚。 非の打ち所がない清楚な女の子。 ガサツでいつも男の子みたいな格好

25. だれも知らない、みんなは知ってる/純喫茶リリー

後から思えば、ママは引っ越しの挨拶周りをしたのだろうか。 律子の通う小学校には、登校班という仕組みがあった。 朝、近所の子どもたちが集まって一緒に学校へ向かうのだ。 しかし、律子は当然、近所の子どもたちと顔を合わせたことがない。 それに対して、彼らは幼い頃からずっと一緒で、年齢が違ってもみんな仲が良く、まるで兄弟のように育っている。その輪に突然放り込まれる律子。 入学式の翌日、初めて登校班に参加する朝、律子はママに連れられてその集まりへ行った。 「今日から一緒に行ってね、

24. 突然の新しい家と新しい名前/純喫茶リリー

律子は小学校に上がるタイミングで、れいすけにいちゃんのいるアパートから引っ越すことになった。 新しい家はリリーから車で30分くらいのところにあるオンボロ一軒家だ。 玄関のドアはガタガタ音がするし、風が吹くと家全体がミシミシ揺れる。 でも居間にはお父さんの立派なオーディオセットが鎮座していた。 そして、律子にとって初めての「自分の部屋」ができた。 部屋には、ピンクの絨毯に学習机が用意されていた。 学習机にはミミララの可愛い椅子がついていた。 それが律子が一番気に入ったものだ。

23. 咄嗟のウソ/純喫茶リリー

あのミミララの小物入れは手に入らなかったが、代わりにかわいい消しゴムを手にした律子。 リリーに戻ってからも、盗られたことに気づいたスーパーの人が 律子を追いかけてくるんじゃないかという不安に駆られて冷や冷やしていた。 でも、その日は誰もリリーに来なかったし、ママも何も気づいていない。 律子はほっとした。 「この消しゴム、どこに隠そう?」と考えながら、ママに見つかるのを恐れつつ、家のおもちゃ箱の中にそっとしまった。 あのおもちゃ箱なら、ママに探られることはない。 でも、本当

22. どうしても手に入れたいあのプレゼント /純喫茶リリー

こずえちゃんのお誕生日会に行った日から、律子は毎日のようにスーパーのファンシーショップに通った。 あの「ミミララ」の小物入れを見に行くためだ。 あれは600円もする。 律子にはとても手が出せない金額だった。 「なんで、こずえちゃんには600円もする可愛いものをあげたのに、私には買ってくれないの?」そう思うたびに、ママに対してムカムカしてきた。 ママに欲しいものをねだるたびに、 「こんなしょうもないもの、コーヒーを何杯売らなかんと思ってるの!」それがコーヒー何杯分の値段かをよ

21.お誕生日会で知った、家の差 /純喫茶リリー

律子が初めて保育園のお友達の家に招かれたのは、こずえちゃんのお誕生日会だった。といっても、律子が誘われたわけではなく、ママがこずえちゃんのママに誘われたようだ。 律子にとって、お誕生日会は保育園で経験するものという感覚があった。家でしてもらうようなことはなく、せいぜい夕ご飯が唐揚げになる程度だ。 さらに、友達の家に遊びに行くという経験も初めてだった。 リリーのお客さんの家にいったことしかない。 新しいことが待っていると感じた律子は、心の中で密かにワクワクしていた。 ママはみ

20.変な名前? /純喫茶リリー

ママの言うことは絶対。 だから、律子は「今日からもみじ保育園に行け」と言われたら、他の選択肢なんてなかった。 けやき保育園に戻りたかったけれど、それは許されないのだ。 新しい保育園では黄色いかわいい帽子じゃなくて、青くてダサい帽子をかぶることになった。 初日、いきなり知らない子たちの前に立たされ、 「今日からおともだちの “おうろりつこ”ちゃんでーす!」 と紹介された。 みんなの前で突然「おともだち」って言われても、 今日初めて会ったばかりで友達なわけがない。 心の中で「勝

19.転園〜アウェイ戦の洗礼/純喫茶リリー

新しく通い始めたもみじ保育園は、喫茶リリーから歩いて行けるくらいの距離だった。 だからママは突然転園させたんだって、律子は何となく理解した。 お迎えも、ここでは夕方には来てくれるようになった。最初のうちは。 保育園が終わると、律子は直接リリーに戻って、お店が終わるまで過ごしてから帰るのが日常になった。 前のけやき保育園には、赤ちゃんの頃から通っていて、他の誰よりも長い時間を過ごしてきた。 だから律子は、先生とも一番仲が良くて、誰よりも園のことを知っていると自信を持っていたし

18.突然のサヨナラ /純喫茶リリー

けやき保育園の年長さんだった律子。 ママのお迎えが遅いから、いつも一番最後まで残ってた。 ママのお迎えが遅いから、いつも最後まで残る常連だ。 その律子を、パートの野田さんがよく面倒を見てくれていた。 律子はずっと、野田さんのことを「おじさん」だと思ってたけど、ある日、何かの拍子に女の人だって知ってしまった。 「えー!野田さんって女だったの?」 律子が大声で叫ぶと、その場の空気が一瞬で凍った。律子はそんな雰囲気に気づくことなく、いつも通りの調子だった。 野田さんは、園児た

17.れいすけにいちゃんのお下がり /純喫茶リリー

なぜか男の子になりたかった律子。 アパートの上の階に住んでいた、れいすけにーちゃんからおさがりの服をもらっていた。 れいすけにーちゃんは同じけやき保育園の年長さんで、 律子が熱をだして保育園に行けない時は、れいすけにいちゃんの家に預けられたりしていた。れいすけにいちゃんのママは苦手だったけど、一人っ子の律子にとっては、おにいちゃんができたみたいでうれしかった。 だから、彼のお下がりを着ていることを誇らしく思っていた。 なぜ、律子は頑なに「女の子っぽいヒラヒラふわふわした服な