「販促&営業」から「共業する4つのプロセス」へ
マーケティング・販促という役割は、成果の定義や評価しにくい職種であった。キラキラなイメージを持ちやすいが、実際にやることは泥臭いデータ集めや分析、差し戻された企画の練り直しや編集作業などの地道な作業を含め、実施範囲は広いわりに、どのくらい効率よく売上につながっているのかは示しにくい。
2019年に発行された「THE MODEL(ザ・モデル)-マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス-」では、著者の各社での営業管理経験・ノウハウやセールスフォース・ドットコムの営業の分業体制をプレイブック(経験に紐づく戦略集)としてまとめている。あくまで、中心的に語られているのは、資本力のあるセールスフォースの営業プロセスであり、組織体制や評価指標だけを単純にまねるのではなく、自分の会社にとっての「ザ・モデル」を創造を目指してほしいと著者はいう。2021年現在、SaaS(Software as a Service)を提供している日本企業内では、インサイドセールス・カスタマーサクセスという役割は増えたように思う。部門が新しく新設されたり、役割を兼任したり、採用募集も多く見かけるようになった。
「販促&営業」から「4つのプロセス」へ
今までは、販促があらゆる方法で獲得したリードに対して営業担当が対応し、アポどりから受注、契約後のフォローまで全て実施していた。つまり、販促部門はどのようにリードを取得するか、多岐にわたる様々な手法を試し、その後の長いプロセスはすべて営業が実施していた。
しかし、SaaSの多くはサブスクリプションの課金体系をとっており、いかに多くの利用者に継続して使い続けてもらえるかが重要になる。近年では、「ARR(Annual Recurring Revenue):初期費用やスポットでの広告収入などを除いた、毎月繰り返し得られる売上の1年分の金額」も投資家がSaaS銘柄を選定する上で重要な指標として見られるようにもなり、決算時期に公表している上場企業も増えている。
つまり、継続利用してもらうために受動的なサポート対応だけでは不十分で、導入後も力を入れてお客様と伴走する対応を能動的にする必要があるが、利用者が増えるにつれ営業も負担が増えてしまう。セールスフォーススタイルの『THE MODEL』では、プロセスを「マーケティング→インサイドセールス→営業(フィールドセールス)→カスタマ―サクセス」の4つにきりわけている。
「マーケティング」今までは、リード獲得するまでがマーケティング部門の役割であったが、それに加えて先ほどの4つのプロセスの全体指揮やサポートを担う仕事になってきている。オンラインの新しいチャネルを攻略していくほかに、MA(Marketing Automation)ツールの設定、カスタマージャーニーマップ等を作成し、各ステージごとのアプローチの最適化など、求められる役割もスキルも多岐になっている。
「インサイドセールス」とりあえず獲得したリ―ドにアポイントをとるような単なるテレアポ部隊ではなく、獲得したリードに優先順位をつけ、商談供給の調節弁となる役割である。営業からすると、忙しいときは確度が高いものをなるべく対応したい・忙しくないときは見込みを作りたいため、確度が多少低くても早くパスしてほしいというなんどもワガママ(笑)な願望があるのだが、そこを調節することで全体の効率化を図る。また、一度失注したり育成リード(情報収集フェーズなどで商談化しなかった・具体的な利用検討に至っていない)層への最アプロ―チの設計も担う。
「営業(フィールドセールス)」主に商談から受注するまでを担う。細かいテクニックや商談時のヒアリング事項も『THE MODEL』の中で触れられているが、受注に至るまでのフェーズを定義づけ、フォーキャスやパイプラインを管理して先回りに動くことが記載されている。BtoBの営業では、受注に至るまでのリードタイムが長いケースが多く、何カ月後の受注につながる見込みの数値をどれだけ先につくれるかが目標達成に必要となる。
「カスタマ―サクセス」契約後のあらゆる活動プロセスの総称をさす言葉であるが、近年は「カスタマーサクセス」というものが役割として募集をかけたり、部門として新設されたりしている。シンプルに訳すと「顧客の成功」だが、顧客が成功する上でハードルがいくつかある。例えば提供したサービスの使い方が分からずに定着化しなかったり、使用している中で新たな要望をくみ取ることで、顧客のもともと課題を解決できているか、担当者が目標達成をしているかを判別し、能動的にアクションする。継続していただくことが重要なビジネスモデルのため、顧客と伴走し関係性を向上し継続更新してもらう鍵となる。
『THE MODEL』では、各プロセスごとの評価指標や役割、向いている人材などの記載もあり、戦略や人材や組織のマネジメントについても記載されている。
「分業」ではなく「共業」
さて、プロセスごとに新たな仕事や役割が創出されているが、筆者は「分業」ではなく「共業」すべきと述べる。今までは販促側は「営業力がないから受注できない」と思っていたし、営業側は「リードの質が悪い」という不満をふつふつと抱えて、同じ会社内でも分断されていて、各々がそんな意見に対して自部署内で必死に改善に努めた。しかし、双方向にフィードバック機会を設け、数字を一緒に確認し改善に努め、対立構造を生まない組織をつくることで、販促の成功・営業の成功へ繋げることが重要である。