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【感想】自閉症の僕が跳びはねる理由

これはもう全人類に読んでほしい、素晴らしく価値のある本。
重度の自閉症の作家、東田直樹さんが13歳のときに書いた、自らへ向けられる視線への真っ直ぐな回答。これが驚きの連続で。

障害者の人権とか多様性がどうとかいう前に、読み物として、自分の認識が崩れていく心地よさというか、知的冒険を体験させてくれる良作になっています。
もちろんそこには東田さんの苦悩の蓄積があるわけなんですが。

僕たちの1秒は果てしなく長く、僕たちの24時間は一瞬で終わってしまうものなのです。場面としての時間しか記憶に残らない僕たちには、1秒も24時間も、あまり違いはありません。いつも次の一瞬、自分が何をしているのか、それが不安なのです。

など。読後しばらく思い出しては考えてしまう。

自閉症という病気がどんなものであるのか、通常は当人と会話ができないため健常者に理解するのは難しいのだけど、東田さんはそこを克服して僕たちにわかるように文章を(とてもわかりやすく!)書いてくれいる。
これは症状が軽くなったのではなく、重度の自閉症の症状の中から、キーボードというツールによって自分の考えを外の世界に伝えるすべを得たということで。

読んでいて感じたのは、コントロールの効かないロボットの狭いコックピットに閉じ込められて、なんとかしようと操縦レバーをガチャガチャやっているイメージ。
自身の手足、声が、どの様に動いているのか把握することが難しい。
かといってレバーから手を離してしまうと何も動かなくなってしまう恐怖があり、動かし続けるしかない。
外を流れる景色は断片的で、前後の脈絡がない。なんとかそれらに意味を見出そうと時間をかけてつなぎ合わせて解釈していくような。

しかしそこにある魂は健常者と変わらない、豊かな感性と論理的な思考力を持っている。
もしかすると健常者にはできないものの見方、感じ方のなかでもっと豊かな感性を獲得しているのかも知れない。(実際、東田さんは作家として小説や絵本の原作なども手掛けている)

僕ら健常者が彼らと対峙するとき、コミュニケーションが取れないために恐怖したり、何もわからない赤ん坊のように扱ってしまうことがあると思うのだけど、それらが間違いであることがよくわかった。


ネットフリックスのアニメ「地球外少年少女」のなかで、知能のリミッターが外れて超存在となったAIが主人公に語りかける場面があって。
「前後に因果関係を必要とする人間の言語では真理は表現できない。宇宙はそのようにできていない」というようなセリフがあって、とても好きなんですけど。

人間の脳はもともと因果関係(物語)で物事を理解するようにできていて、脈絡がない事柄をうまく認識できない。だから古代の人々は様々な事象を神話という形で理解しようとした。
自閉症の人たちが脈絡の分断された世界に生きているとしたら、もしかするとそれは新しい人間の認識のあり方を示唆するかもしれない。なんて思ったり。

東田さんは物語を書く作家でもあって、本書の最後にも素敵な短編小説を載せている。これ本当にすごい。
普通の人より多くの角度から、時間をかけて世界を見ている東田さんの紡ぐ物語。
なんと素晴らしいことか。

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