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響子と咲奈とおじさんと (4)

 おじさん家

マンションに戻り駐車場に車を止め、晋平は「着いたよ。」と咲奈に声をかけた。
咲奈はその声にハッと気が着き眼を覚まし「…….すみません。寝てました。」
晋平、声を出さずに顔だけで笑った。

駐車場からエレベーターホールへのドアを暗証番号で開け、咲奈を誘導しエレベーターに乗り込む。
12階で降り、一室の前で止まり鍵を開けその部屋に入る。咲奈を招き入れた晋平は歩きながら、真ん中あたりで「右がトイレ、左が洗面所とお風呂」と説明した。一番奥がリビングで左に対面キッチン、右にクローゼットと押し入れがあった。
「まず、シャワーを浴びなさい。で、着ている服を全部脱いで。」
咲奈はビクッとして身構える。晋平はお構いなしに
「え~と。タオル、タオルと、シャワーキャップか。たらい?無いな。」と言いながら洗面所へ向かう。
ガタガタと音がした後、晋平がリビングへ戻る。
「寝巻かパジャマかなんかある?」晋平が聞くと咲奈は
「持ってきていません。ってゆうか持ってません。すみません」
「謝ることないよ。うん、大丈夫だぁ~」少し微笑みながら、誰かの物まね風に晋平は言う。
クローゼットを開け、いくつか引き出しを開け閉めした後、袋を取り出し
「あった。あった。これを着なさい。サイズは、、、Mかぁ。小さいかもしれないが我慢して。まだ着てないやつだから」
スウェットの上下を咲奈に手渡した。
「脱いだ服はミッフィーの中に入れといてくれ。タオルはワゴンの上だから。着替えも持ってけよ。」
【ミッフィー?】
咲奈が下着と渡されたスウェットを持ち洗面所へ入ると、ミッフィーのベビーバスが洗濯機の上にあった。【あ、これか。ベビーバス?】
身体は汗もかき、埃っぽいし、顔は涙と鼻水と鼻血でグシャグシャで、一刻も早く洗いたい咲奈は脱いだ服をミッフィーのベビーバスの中へ入れた。タオルの上にシャワーキャップがあるのを見て
【……へぇ~。何で判るのかな?、こんな事】と思いながら浴室に入り、ロックを掛けた。
頼った相手がパパ活の相手で1人の男性である。この後、どうなるか分からない。
どうしたら良いのかも今は分からなかった。

晋平は玄関横の右の部屋に行き、声にならない声で「咲奈、入るぞ。」と言いながらドアを開け中に入り明かりをつけた。
「咲奈、今晩部屋を咲奈さんへ貸してやってくれ。」呟きながら、ベッドカバーを引き剥がし丸めて部屋の隅に置き、部屋を出る。
リビングのクローゼット横の押し入れから上下組布団と毛布、枕を咲奈の部屋へ運びベッドの上に置く。
そして洗面所へ行き、「シャワーの出し方、判った?」とやや大きな声をかけた。
「はい。判りました。大丈夫です。」中からシャワーの音に負けない様に少し大きな声で咲奈が答える。
晋平は洗濯機の上のミッフィーのベビーバスと棚のバスタオルを2枚持ち出す。
ベビーバスはキッチンまで持って行き、台の上に置く。タオルは咲奈の部屋へ持って行った。
ベッドに布団を敷き、タオル1枚は枕へ巻き着け、もう1枚は枕の下へ広げた。

台所まで戻った晋平は、「さて、しみぬき、しみぬきっと。」と呟き乍らシャツの腕を捲る。
シャツを水で押し洗いし、食器用洗剤をかけもみ洗いした。
次にジーンズのスカート、ブラトップシャツ、ショーツも洗った。血をぬぐったタオルも洗った。

咲奈は浴室から出てタオルを取り、体を拭き持ってきた下着と借りたルームウエアを着た。やっぱり小さかった。
ふと、洗濯機の上をみて
【あ!、着てたものが無い!。……まさかもってっちゃった?……パンツに穴が開いてる!。ブラトップもほつれてるし、、、。】
慌ててリビングへ来ると。キッチンの台の上、洗面器に入れてある着ていた服を見た。
【あっちゃー。……パンツも?。見られちゃった?。恥ずかしい~】「あ~、、、、」--うなる様に--と咲奈が言うのをみて晋平は、
「お~。出たか。一応、血を落とそうとしたけど、少し残りそうだ。他に漂白剤とかないからなぁ~」
「今から、洗濯機に入れて洗うから。」と言いながら洗面器を持ち洗面所へ向かう。
「洗濯ネットを探そう~♪」--いい部屋ネットで探そう~のメロディー-- 晋平の鼻歌が聞こえた。
「え、何?、」【咲奈、反応しちゃダメ!。無視、無視。】心の声がした。予想もしなかった展開と下着を触られた恥ずかしさが入り乱れ、思考力も今日の出来事で追い付いていない。
洗濯機の動く音がして、晋平が戻って来た。
手には新しいハンドタオル。「まだ、鼻血が出るかもしれないからこれね。」咲奈に渡す。
「あ、そうそう。スカートはデニムだから別に洗うね。え~っと何か飲む?。あ、何も食べてないか?」
晋平はコンビニで買ったものをテーブルの上に並べ、
「好きなもの、食べていいよ。好きなものがあるかどうか判んないけどね。ま、これで良ければだけど。」
咲奈は、マイペースで次から次へと事を進めるな晋平に少しイライラしながらも、申し訳ない様な恥ずかしい思いで一杯になり
「本当にすみません、何から何まで、、、。」
  「いいよ、いいよ。気にすんな。それにもう謝んなくていいから。、、、何飲む?暖かいの?冷たいの?」
「・・・暖かいの、、、」
冷蔵庫を開け牛乳を取出し「ミルクティーでいいか?」と聞き、コーヒーカップとティーバッグを棚から出す晋平。
牛乳を注いだカップを電子レンジで温めて、ティーバッグをカップに入れテーブルの上に置く。スプーンとスティックシュガーを横に置く。
【何でここまで出来るの?誰に教わったの?何で?独り者でしょ?】判らないことだらけで混乱する咲奈。
助けてもらいながら、イライラしている自分。落ち着こうと深呼吸をした。

暖かいミルクティーをゆっくり飲む咲奈を見ながら、晋平はテーブルの買った物の内、冷やす物を冷蔵庫へ仕舞う。
テーブルの椅子に座りながら、少し落ち着いた様に見える咲奈に「鼻は痛くないかい?」と晋平は聞く。
「少し痛いけど、多分大丈夫です。多分。……で、あの~。」
咲奈が何か言いかけた言葉を遮るように晋平が話し始める。
「今日はゆっくりと寝なさい。お、寝るとこはこっちだ。」晋平は椅子から立ち上がり、
咲奈は半分しか飲んでいない紅茶の入ったマグカップを置き、左手に渡されたタオルを持ち、晋平に促され付いていく。
「ここを使って。」玄関横の部屋のドアを開け、中に入る。
「リモコンはこれ。」勉強机らしき上に置いてある。
「鍵は中から掛かるから。」
ベッドを見ると、布団とタオルの巻かれた枕があった。
「汚れてもいいからね。気にしないで。……あ、そうだ。携帯のバッテリーある?」
咲奈はリビングのソファーに戻り、リュックから携帯を取出し、画面をみて、
【...22%かぁ。帰るまで持たないかな?】
ついてきた晋平は、リビングのチェストの引き出しの中を探しUSB充電器を出し、
「端子は合うか?」と咲奈に手渡す。
咲奈はケーブルの端子を持ち、携帯に差してみて答えた。「合います。」
「じゃぁ、俺はシャワーを浴びて寝るから。好きな時に寝ていいよ。」と言った後、浴槽の方へ向かった。

その場に立ちすくす咲奈。何かにイライラとする気持ちに対し、【怒らない、怒らない。助けてくれたんだよ。ありがとうだよ。】とまた、自分に言い聞かせた。
テーブルの飲みかけのミルクティーを飲み、キッチンのシンクの中へ置き、リュックと充電器を持ち、先ほどの部屋に戻る。
掛け布団をめくると、敷き布団にもタオルが敷いてあった。
【何だろう、あのおじさん。執事経験者?。何者?… でももう疲れた….】
机のリモコンを持ち、布団に横になった咲奈は明かりを消すとすぐに寝入った。

シャワーを浴びた晋平、ソファーに腰掛け、天井を見上げる。
【おい、晋平。テンション高かったねぇ~。異常だね。】
【仕事以外で誰かに頼られた事って、あれからあったかな?】
【明日は仕事だ、早く寝ないとな。……でも洗濯が終わらないとダメか。】
【お嬢さんは明日帰るかな。明後日なら送ってあげられるけどな。】
【もう、これ以上関わらない方がいいのか?ほっといていいのか?お前にできる事は無いのか?】
いろんな事を考えるが結論が出ないまま、洗濯機の終了チャイムが鳴った。
晋平は出してきた洗濯物をリビングのブティックハンガーに、ハンガーやピンチハンガーで干した。
また洗面所に戻り、デニムスカートを洗濯機に入れ洗濯から乾燥コースのタイマーをセットした。
【結局、ビールは飲めず、か。】
リビングの明かりを常夜灯に替え、キッチンの灯りを消し自分の寝室に入り、ベッドに入った。


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