広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (5)

  冬の別れ

雅恵は大学生時代、2年生に上がる時に親に軽自動車を買って貰い、通学に使用していた。
女子学生で自動車通学は結構いたが、ハイスペック女子は同じ大学の男子学生との相乗りや、下校時に誘われる確率が高いので、敢えて乗ってきていなかった。
その中で、雅恵が自動車通学を始めるとスレンダーで性格がきつめにみえる容姿が、ハイスペック女子の小道具に使用されるようになった。
その女子は、可愛い系、お嬢様系が多く、雅恵が隣にいると更に引き立つのではと言う思惑が見え隠れ。
雅恵も、悪い気はせず、お願いされればその女子達を送って行く。ほとんどの場合、ファーストフード店や観光名所、「尾道浪漫珈琲」とかのコーヒーショップへ立ち寄る。
たまに、観光客や他市の大学生、会社の営業マンが声を掛けてくる。目当てはハイスペック女子であっても、二人連れの男性なら相手の連れと必ずペアになる。
帰りは別々の車で帰宅。雅恵は知り合った男性とおしゃべりや軽食、喫茶店へと連れ添う。その内、男性の部屋へもお邪魔する勇気も出始め、女に成って行った。
お付き合いが始まる事もある。しかし、雅恵は付き合い始めから必ず、別れの場面を想像し、そのシナリオを妄想し、2,3か月後には、別れを切り出す。
「私の事をもっと知って欲しい」とは思わない。知られると離れて行く。捨てられる。といつも考えてしまう。
相手の事をもっと知りたいと思う事もあるが、【イケん、、、知らん方が幸せ、ええ思い出のまんまで終わらせる事が出来るけぇ、、、】と自分に蓋をする。

夏から続く、富田との関係。
【富田所長で、のおてもえかった(無くても良かった)、、、今のうちを何処かへ連れて行ってくれるんなら、誰でもえかったんよねぇ、、、
 所長はうちとは逃げてくれそうになあよねぇ~。今を捨てる気もなあよねぇ~。
 アパートへ行く度に、倒す写真立て、、、うちが帰りゃあ、元に戻すんよね、、、所長。
 当り前よね、、、所長は所長で、うちでのうても(なくても)誰でもえかったんかも知れんし、、、たまたま近くに口をパクパクしょった魚がおっただけよね。
 所長の携帯の待ち受け画面とホーム画面、奥さんと子供さん、、、うち、それを見ても 嫉妬ジェラシーがおきんのんよ。申し訳ない気持ちになるんよ。
 このまんまじゃ、壊すよね、、、、、、所長の家庭、壊すよね、、、、、、所長が困るの、うちのせいじゃったら、うちが悲しいし、、、
 ほんま、勝手なもんじゃねえ~、、、うちって勝手じゃねえ~。、、、、、、、、、もう、ええわ。止めよ、、、】

「毛利さん、クリスマスはどうするの?」富田は雅恵といたした後、妙に明るい声で聞いてきた。
「……所長?、、、終りにしてください。」ワンテンポ遅れて、雅恵はポツリと呟く。
「……はっ?……何かあったの?俺、何かした?、、、それとも 不足したりないところでもあるの?、、、何で?」富田、心配そうに雅恵を覗く。
「……所長の奥さんと子供さんに悪い、、、うちがおっちゃ~(いれば)所長の家庭、壊してしまう様な気が、、、」言い終えた後、富田をじっと見る雅恵。
「でも、ここは尾道だよ、、、東京じゃないよ、、、分からないと思うけど、、、」富田、少し狼狽。
「知っとってと思いますよ、奥さん、、、多分。うち、そんな気がする。」目をそらし、足に掛けた布団を掛け直す雅恵。
「女の感は鋭いと言うけど、、、そうなのかなあ~?、、、分かってるのかなあ~?」
「最近、月一回、東京へ帰られる前の晩、うちが来とるでしょう?、、、所長、向こうに帰ってから奥さんに孝行しょって?」
「う~ん、、、してないかな?、、、土曜日に帰って翌日こっちに来る時、しない時が続いたな、そう言えば、、、」
「元に戻してあげてください、、、うちの事、もうええけえ、、、」
「……他に理由でもあるの?俺の家庭の事を心配してくれるのは有難いけど、なんか引っ掛かるんだよね~。」富田、多少不機嫌になる。
「うち、多分、所長でのうても(なくても)えかった(良かった)様な気がしとるんです。所長には申し訳ないけど、、、」
「俺じゃなくても良かった?、、、どういう事?……何?単なる遊び?、、、あっ、俺は不倫してるんだった、、、遊んでる方だった。」
富田、不機嫌になりかけた感情が、後ろめたさからか、自己嫌悪気味な気がした。
「うち、、、色んな事情で自由な恋愛が出来んのです。じゃけえ、憧れでくっついても本気になれんのんです。昔っから、、、
 所長の事、憧れじゃったと思います。恰好えかったし、やさしいし、強そうじゃし、落ち着いとるし、、、」
「……ありがとう。嬉しいけど、、、」富田、思案する様な顔になる。こんな時は大抵の場合、どうしようかでは無く、【勿体ないなぁ~】と考えているものである。
「そうかぁ、、、毛利君がそう言うなら、そうしようか。」富田、雅恵の『やっぱり、うち別れとうないっ!』の言葉を期待し、言ってみた。
「すいません、、、勝手な事ばっかしゆうてからに、、、」雅恵、妙に落ち着いている自分に段々嫌気が差してきていた。富田も期待外れに困惑。
「でも、毛利君さえよければ何時でも俺はOKだよ。セフレでも良いよ。」往生際の悪い富田。
「今でも十分、セフレです!。不倫です。」雅恵、セフレと言うワードにイラついた。
「あっ、ゴメン。言い過ぎた。間違えた。忘れてくれ。」
「ええです。これで終わりにしてください、、、所長、、ほんまにありがとう。楽しかったですよ、うち、ほんまに。」
「分かった、、、来週からは何も無かった様にしよう、、、、、、出来るかな~?、、、自信ないけどそうするから、、、」
「所長、ほんまにすいません。我儘なうちのせいで。ごめんなさい、、、」
雅恵はベッドの上に正座し直し、富田に謝った。
「うん、、、、でもさ。明日の朝までは、俺の我儘を聞いてくれるね?」と言いながら、顔が雅恵に近づいてきた。
「……はい、、、、、明日の朝までです、、、」雅恵も応えてしまった。

今年のクリスマスも、ぼっちクリの雅恵。


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