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結婚式で流した曲は、もう聞けないと思っていたけど
結婚式の日は、雨だった。
雨雲で覆われた空を見ながら、「結婚式で雨なんて雨女認定間違いないな」と自嘲するくらいには、悲しかった。あの頃は、日なただけを通って歩きたいほど、おひさまが好きだった。式場も、「自然光がたっぷり入るところ」を第一条件で探したくらいだ。
それでも式が始まると、外が雨だなんて、すっかり忘れてしまった。好きな人たちから祝福される結婚式は、幸福しかなかった。
向こう半年くらいは、式と披露宴の様子を、ちょっと噛みしめ直すだけで、胸の中心がふわっと温かくなるくらい、その日の思い出は私を幸せにしてくれた。
けれど、10年近くが経った。
映像や写真なんて、もうほとんど見返すことはない。
今も、幸せだ。けれど、あの頃とは形が違う。
キラキラした祝福に囲まれ、輝く未来しか見えていなかった、あの日とは違う。子育ても、仕事と家事の両立も、そんなものだけでは語れなかった。
だから、なんだか今の気分に合わないんだ。
それでも、記憶がいやおうなしに蘇ってくるのは、音楽を聴いた時だ。
特に披露宴で、スライドショーのBGMに使った曲。
手作りが苦手で、ほとんど式場任せだった私たちが唯一自分たちの手で作ったのが、スライドショーだった。新郎新婦の生い立ちや、出会ってからのこと、出席者への感謝を綴るスライド。今なら動画だろうけど、当時はBGMにのせてペラペラと画像を自動的にめくっていくスライドショーが主流だった。
式準備の中で、一番時間をかけたのが、このスライドショーだった。
システムエンジニアという意地もあったが、
何より、花嫁は母への手紙という見せ場があるけれど、
その他にも沢山いる大切な出席者に、感謝を伝える場はここしかないのだ。
そんな大役を任せた曲は、
いきものがかりの『風と未来』だった。
スライドの写真は、出席者が全員写るよう一人ひとりをチェックした。
2人の歴史をたどる中で、親戚、友人、同僚、全員を登場させて、皆の心に響くように文字を考え尽くして添えた。音楽とのマッチングも大事だ。スライドをめくるタイミングは0.秒までこだわった。
曲を聴くと、そんな準備の様子や、当日の出席者の顔が重なる。
気恥ずかしくて、特に夫と一緒にいる時なんて聞けず、ラジオや、流しっぱなしにしていた音楽ストリーミングで、『風と未来』のイントロがかかると、慌てて別の曲にかえていた。
気恥ずかしい。と書いたけれど、それだけでは、表せない。
死ぬほど練習した高校最後の演奏会の曲を、聞けなくなったり、
死ぬ思いで書いた自分の文章を、読めなくなったり、
その気分に似ている。
もしかしたら、あの時の自分が恥ずかしいわけではなくて、
あの時120%で曲や文章と向き合っていた自分と今の自分、
あの時120%幸福だった結婚式での自分と今の自分、
を見比べて、変わりすぎてしまった今の自分が恥ずかしいのかもしれない。
先日、もう一度いきものがかりのファンになると決めて、『風と未来』をものすごく久しぶりに聴いてみた。
イントロが流れると、指先が反射的にこわばる。けれど、今日はそのまま聞き続けてみた。初恋の人に会う前みたいに、胸がドキドキする。
・・・・・!!!!
いや、いい曲すぎる。
むしろ、今の私のための曲なのですか、と思ってしまった。
ほどけた足跡をもう一度辿れば いつか見た夢の続き書き直してまた始められるよ
背中を押されるのなんの。
気分をあげてくれるのなんの。
今なら、あの頃夢見たのと同じように、たくさんの夢を描ける気がする。怖くて手を出せなかったことに挑める気がする。この曲と一緒なら、苦しいときも、進める気がする。全自分が、沸き立つ。
私は、一周回って10年前と同じ心境にいるんだろうか。それとも、音楽はずっと、私が聴いていない間も、“そう”だったんだろうか。
これは山下穂尊作詞・作曲なのか。卒業してもなお、こんな気持ちにさせてくれる。すごいな。
私もいつか、文章で。
大事すぎて、聴けなくなってしまった曲はありませんか?
ちょっと勇気を出して聴いてみたら、
今日からの自分の背中を、もう一度、全力で、押してくれるかもしれません。
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