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今日も息子は、手を振り続ける

バスの階段をピョンと飛び降りて、
息子は走る。
いつものあのポイントに。
バスを正面からよく見える場所。

そして手を振る。
バスの運転手さんに。

位置に着いたらすぐ。
ぷっくりほっぺの横で、
小さな手のひらを、左右に振る。

一生懸命に。
ほっぺが揺れるくらいに。

一方で、瞳は決して揺れてはいない。
バスだけを見て、真っ直ぐだ。

そんな息子を、すぐ隣で見るのが幸せ。



運転手さんに振り返してもらえると、
私の心は跳ねる。

ちょっと前まで、
ただの移動手段で、
それを運転している人のことを、
意識したことなんてなかったのに。
まさか私の人生に、運転手さんを見つめ、手を振り返してもらって、嬉しくなる日が来るなんて思ってもみなかった。



「やったね!」と、息子にかける声が弾む。

「振り返してくれたねぇ!」と、
バスの後ろ姿を見送って、
やっと私を見てくれた息子が、
笑顔だと、もっと幸せ。


一生懸命振っても、
振り返してもらえないことだってある。
気づいてもらえない時もある。

その方が多いかもしれない。

「あーあ、行っちゃったぁ」
とがっくり、撫で肩をさらに下に下げる。

歩幅だって、さらに小さくゆっくりになる。




それでも息子は、
今日も、バスがよく見えるポイントへ走る。

そして、手を振り続ける。

この前振り返してもらえなかったから、
今日は振らない、なんてことはない。

手を振るスピードだって変わらない。

彼はいつだって、
プラスでもマイナスでもない位置から、
真っ直ぐに、信じているみたいに見える。






私は、
どうか振り返してくれますように、
と、今日も息子の隣で願うだけ。

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せやま南天
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