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ひとり天ぷらランチ、という選択

「天ぷらをお店で食べる」というと、
敷居が高く感じるのは私だけだろうか。
定食屋で、蕎麦の横についている天ぷらではなく、
天ぷら専門店の天ぷら。

関西人だった私が思い浮かべるそれは、寿司以上の高級品だった。
縁遠い「江戸の料理」で、さらに言えば、
銀座や神楽坂などの高級店だけで食べられる
選ばれし大人の料理というイメージだった。

✴︎
わが家は先週末に、初めて、
自分達でテントを建てるキャンプをやった。
川のそばのキャンプ場で、車のドアを開けた瞬間から水の流れ落ちる音がした。初夏の湿気を含んだ緑は、瑞々しく、癒された。

けれど、いつもと違う環境であまり眠れなかったのも事実。
テントの設営・撤収や、子供との川べり散歩、虫とり…普段使わない筋肉を使った感じもある。次はもうちょっと慣れてくると思うんだけど。

そんな土日を過ごした、週明け。

なーんか、疲れてるなぁ。
今日はちょっと、身体を労わる日にしよう。

そう決めた。

✴︎
労わるとはいえ、所用もあって、
自由時間はお昼くらい。

ランチ、何を食べようか、

と疲れた身体に問いかける。
返ってくるのは、

まずなにを置いても、あたたかいご飯

疲れた時に食べたいもの、最近変わってきたなと感じる。
10代後半~20代の若い頃は、
外食といえばとにかくパスタ!だったから、えらい違いだ。
今もパスタは好きだけど、疲れてる時はご飯みたいだ。お味噌汁と漬け物がついてたら最高。

おかずは、
自分では作れないちょっと手の込んだものか、
土地のもの、がいいな。

✴︎
そんな気分で選んだランチは、
天ぷら

今日行ったのは、出先から少し足を伸ばしたところにある天ぷら屋さん。全国に店舗がある。

博多天ぷらというジャンルらしい。
このお店はなたね油を使用。
カウンター前で調理し、揚がったらすぐに1品ずつ提供するスタイル。

お肉は先週キャンプでたらふく食べたから、
今日は、野菜が食べたい。

ということで選んだのは、
ヘルシー天定食。980円。
ちなみに、メインの定食だと1100円。

昔抱いていたイメージより、グッと値段はお手頃だ。ヨシヨシ。

お店の前には、6〜7組の先客。
ご年配の夫婦や、サラリーマン風のおじさま、カップルもいる。年齢層はやや高めかな。
並んで10分もしないうちに順番が回ってきた。回転は速いみたい。

「おひとり様ですか?」
と少し驚いた顔をされる。女性の一人客は、珍しいのかもしれない。

「こちらのお席でお願いします」
厨房を囲むように作られたカウンター席に、案内される。
中では、お店の人がテキパキと動いている。
注文を受ける人、天ぷらを揚げる人、ごはんや味噌汁を配る人、おかわりを聞いて回る人・・・それぞれの役割を全うして動いている感じが、気持ちよい。

まず運ばれてきたのはご飯。
それから、野菜の浅漬け、味噌汁、昆布明太。
これだけで、ご飯が進んでしまう。

まだ天ぷらは来ていないけど、、、、あらがえない。

セルフの烏龍茶をゴクリと飲んで、食べ始める。
箸は、ふっくらしたご飯にすぅっと入る。
さっぱりした浅漬け、
とろとろの昆布明太、
なめこの味噌汁、を交互に。

ほくほくと、身体の芯までじんわりする。
気づくとご飯が半分ほど減っていて、ハッとする。

いかんいかん、天ぷらを待たなくては。

「お待たせしました。はじめはささみ天です!」

目の前の小さなバットの上に、天ぷらが置かれる。
しっかり大き目サイズなので、まず半分はお塩でいただく。
サクッ歯を入れる。ほんのり軽やかな油の香り。
それでいてささみなのに、しっかりジューシー。

もう半分は、大根おろしをのせて、天つゆで。
衣につゆが染みてうまい。

続いて、野菜5種類。
レンコンとカボチャ。
茄子と、しいたけ、ピーマン。

✴︎
サクリサクリと。
大根おろしをのせて、つゆをつけてジュわっと。
食べ進める。

身体中が、今食べているものを喜んでるのを感じながら、ふと、実家の父と母を思った。

関西の実家の父は、天ぷらが好きだった。
遠い東京への憧れがあったのかもしれない。
家で「今日のごはん何にする?」と母が聞けば、
父はたいていは「天ぷら」と答えていた。
なかなかやっかいな好物だ。
手間がかかるし、上手に揚げるのは難しい。
およそ、そのリクエストに応えていた母は偉い。

母の揚げた天ぷらをつまみにビールを呑みながら、父は、

「南天!東京の天ぷらはなぁ、ごま油で揚げるんやぞぉ!知ってるかぁ?」

と話した。天ぷらが食卓にあがるたびに同じ話をするのだから、耳タコである。

「知ってる。前も聞いた」

と答えるが、娘の答えなんて気にも留めず、いつものように言う。

「そうかぁ!
 お父さんも一回だけ食べたわ。
 香りが違う。高級品やねんぞぉ」

きっと酔った父は、また次も同じ話をするだろう。


次に実家に帰った時に、性懲りも無く父が、

「天ぷら食べたい」

と言ったら、私はこう言おう。

「いいやん!外に食べに行こう!
 美味しいお店知ってるから。
 なたね油で揚げるねんで。」

「いやっっ!!!聞いた?!
 この子ったら、外で天ぷらやて!!
 大人になったなぁ〜」

母の驚きながらも、嬉しそうな顔が目に浮かぶ。

選ばれし大人の料理を、
手軽に味わえるのもこの店を好きな理由だ。


最後にもう一度、烏龍茶を一杯飲む。

厨房で行き交う店員さんを眺めたり、
ご飯とおかずの量で格闘したり、
家族のことを想像したりしながら食べた
ひとり天ぷらは、すごくすごく美味しかった。



【博多天ぷら たかお】

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