ひとり天ぷらランチ、という選択
「天ぷらをお店で食べる」というと、
敷居が高く感じるのは私だけだろうか。
定食屋で、蕎麦の横についている天ぷらではなく、
天ぷら専門店の天ぷら。
関西人だった私が思い浮かべるそれは、寿司以上の高級品だった。
縁遠い「江戸の料理」で、さらに言えば、
銀座や神楽坂などの高級店だけで食べられる
選ばれし大人の料理というイメージだった。
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わが家は先週末に、初めて、
自分達でテントを建てるキャンプをやった。
川のそばのキャンプ場で、車のドアを開けた瞬間から水の流れ落ちる音がした。初夏の湿気を含んだ緑は、瑞々しく、癒された。
けれど、いつもと違う環境であまり眠れなかったのも事実。
テントの設営・撤収や、子供との川べり散歩、虫とり…普段使わない筋肉を使った感じもある。次はもうちょっと慣れてくると思うんだけど。
そんな土日を過ごした、週明け。
なーんか、疲れてるなぁ。
今日はちょっと、身体を労わる日にしよう。
そう決めた。
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労わるとはいえ、所用もあって、
自由時間はお昼くらい。
ランチ、何を食べようか、
と疲れた身体に問いかける。
返ってくるのは、
まずなにを置いても、あたたかいご飯。
疲れた時に食べたいもの、最近変わってきたなと感じる。
10代後半~20代の若い頃は、
外食といえばとにかくパスタ!だったから、えらい違いだ。
今もパスタは好きだけど、疲れてる時はご飯みたいだ。お味噌汁と漬け物がついてたら最高。
おかずは、
自分では作れないちょっと手の込んだものか、
土地のもの、がいいな。
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そんな気分で選んだランチは、
天ぷら。
今日行ったのは、出先から少し足を伸ばしたところにある天ぷら屋さん。全国に店舗がある。
博多天ぷらというジャンルらしい。
このお店はなたね油を使用。
カウンター前で調理し、揚がったらすぐに1品ずつ提供するスタイル。
お肉は先週キャンプでたらふく食べたから、
今日は、野菜が食べたい。
ということで選んだのは、
ヘルシー天定食。980円。
ちなみに、メインの定食だと1100円。
昔抱いていたイメージより、グッと値段はお手頃だ。ヨシヨシ。
お店の前には、6〜7組の先客。
ご年配の夫婦や、サラリーマン風のおじさま、カップルもいる。年齢層はやや高めかな。
並んで10分もしないうちに順番が回ってきた。回転は速いみたい。
「おひとり様ですか?」
と少し驚いた顔をされる。女性の一人客は、珍しいのかもしれない。
「こちらのお席でお願いします」
厨房を囲むように作られたカウンター席に、案内される。
中では、お店の人がテキパキと動いている。
注文を受ける人、天ぷらを揚げる人、ごはんや味噌汁を配る人、おかわりを聞いて回る人・・・それぞれの役割を全うして動いている感じが、気持ちよい。
まず運ばれてきたのはご飯。
それから、野菜の浅漬け、味噌汁、昆布明太。
これだけで、ご飯が進んでしまう。
まだ天ぷらは来ていないけど、、、、あらがえない。
セルフの烏龍茶をゴクリと飲んで、食べ始める。
箸は、ふっくらしたご飯にすぅっと入る。
さっぱりした浅漬け、
とろとろの昆布明太、
なめこの味噌汁、を交互に。
ほくほくと、身体の芯までじんわりする。
気づくとご飯が半分ほど減っていて、ハッとする。
いかんいかん、天ぷらを待たなくては。
「お待たせしました。はじめはささみ天です!」
目の前の小さなバットの上に、天ぷらが置かれる。
しっかり大き目サイズなので、まず半分はお塩でいただく。
サクッ歯を入れる。ほんのり軽やかな油の香り。
それでいてささみなのに、しっかりジューシー。
もう半分は、大根おろしをのせて、天つゆで。
衣につゆが染みてうまい。
続いて、野菜5種類。
レンコンとカボチャ。
茄子と、しいたけ、ピーマン。
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サクリサクリと。
大根おろしをのせて、つゆをつけてジュわっと。
食べ進める。
身体中が、今食べているものを喜んでるのを感じながら、ふと、実家の父と母を思った。
関西の実家の父は、天ぷらが好きだった。
遠い東京への憧れがあったのかもしれない。
家で「今日のごはん何にする?」と母が聞けば、
父はたいていは「天ぷら」と答えていた。
なかなかやっかいな好物だ。
手間がかかるし、上手に揚げるのは難しい。
およそ、そのリクエストに応えていた母は偉い。
母の揚げた天ぷらをつまみにビールを呑みながら、父は、
「南天!東京の天ぷらはなぁ、ごま油で揚げるんやぞぉ!知ってるかぁ?」
と話した。天ぷらが食卓にあがるたびに同じ話をするのだから、耳タコである。
「知ってる。前も聞いた」
と答えるが、娘の答えなんて気にも留めず、いつものように言う。
「そうかぁ!
お父さんも一回だけ食べたわ。
香りが違う。高級品やねんぞぉ」
きっと酔った父は、また次も同じ話をするだろう。
次に実家に帰った時に、性懲りも無く父が、
「天ぷら食べたい」
と言ったら、私はこう言おう。
「いいやん!外に食べに行こう!
美味しいお店知ってるから。
なたね油で揚げるねんで。」
「いやっっ!!!聞いた?!
この子ったら、外で天ぷらやて!!
大人になったなぁ〜」
母の驚きながらも、嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
選ばれし大人の料理を、
手軽に味わえるのもこの店を好きな理由だ。
最後にもう一度、烏龍茶を一杯飲む。
厨房で行き交う店員さんを眺めたり、
ご飯とおかずの量で格闘したり、
家族のことを想像したりしながら食べた
ひとり天ぷらは、すごくすごく美味しかった。
【博多天ぷら たかお】
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