危険運転致死傷罪の要件見直し
2024年1月23日、交通事故遺族団体が危険運転致死傷罪の要件見直しを法務省に求める報道があった。これについて私見をまとめた。
以下では、法と記しているものは自動車運転死傷処罰法、令と記しているものは自動車運転死傷処罰法施行令を表す。
なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。
この記事では、主に以下の書籍を参考としている。
報道
要望書
要望書は、あいの会公式ブログ上に示されている。
要望内容の要旨は以下のものとなっている。
過失運転致死傷罪の法定刑引き上げに対して
これには反対の考え。法3条の新類型制定、被害者数に伴う結果的加重犯の制定が望ましいと考える。
要望書には、以下の事故が事例として示されている。
① 亀山暴走無免許居眠り事故(2012年)
② 軽井沢スキーバス転落事故(2016年)
また、上記事例を題材に以下の観点が理由として示されている。
危険運転には該当しないものの、危険性と悪質性があり、多数の死傷者が出る事案の存在
これらを題材に私見を記していく。
現状分析
要望書には「現在の法律では危険運転致死傷罪に該当はしないものの、重大な危険性があり、且つ、悪質で、多数の死傷者が出る事案があります」「これらの悲惨な事案であっても、法律上は、危険運転致死傷罪に該当しない以上、過失運転致死傷罪の最大7年までしか裁くことができません」とある。
ではそのようなケース、法定刑が7年までしかないので泣く泣く7年で裁いているようなケースがどの程度あるかを確認してみる。
これを窺い知ることのできる情報が『裁判例にみる交通事故の刑事処分・量刑』p.197~207に記されている。過失運転致死97例の量刑を調査したものとなっている。
この調査によれば、 調査対象97件の内訳は、罰金刑3件、執行猶予78件、実刑16件。執行猶予はもともと3年以下のもの(刑法25条)。実刑で3年超のものは3件にすぎない。3年6月、4年、7年。これら3件を除いた残り94件の量刑は3年以下に留まる。
つまり、95%以上の過失運転致死は3年以下に留まる。大半は現行法でカバーできている。泣く泣く最長の7年で処断した、7年に振り切っているといったものは1%程度、ほとんどないという調査結果となっている。
調査対象件数がやや少ないものの、泣く泣く最長の7年で処断したものが1%程度に留まるという点は、傾向を大きく外していないと思う。
この状況で法定刑を7年よりも延ばすのは適切でないと思う。ごく限られたケースのために、大多数にも適用可能な過失運転致死罪全体の法定刑を上げるのは適切でないと思う。それは、量刑相場の引き上げという誤ったメッセージにもなりかねないと思う。
それよりはむしろ、泣く泣く最長の7年7年で処断したような類型の事故を処罰できるように法改正するのが適切と考える。以下の節に示すものは、そういった類型に対応するものと考える。
法3条の新類型制定
事例①は、無免許での居眠り運転事故。現行法では、過失運転致死傷(法5条)+無免許運転加重(法6条4項)になると思う。法定刑は10年以下の懲役になると思う。
個人的には、事例①に適用できるように法3条に新類型を制定するのが望ましいと思う。過労運転に伴う居眠り死傷事故を、危険運転致死傷罪と扱えるようにするもの。法3条3項を新設する形。
法3条3項が新設された場合どうなるか。事例①を法3条+無免許運転加重と扱うと、負傷は15年以下の懲役、死亡は6月以上の有期懲役となる。これは、現行法における危険運転致死傷罪(法2条)とほとんど大差ない。死亡時の法定刑の短期が、6月か1年かが異なるだけとなる。要望にも沿う形の法改正となると思う。
法3条1項と2項、その無免許運転加重は以下のとおり。
法3条2項で定められている病気には、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害(令3条6号)が含まれる。治療を怠る、あるいは処方されている抗発作薬を飲み忘れるなどして眠り込み、死傷事故を起こすと、法3条2項が適用される。
睡眠障害が原因で眠り込むこと、過労運転が原因で眠り込むこと、これらを比較して危険性に差はないと思う。
過労も病気も薬物も、道交法66条で運転避止義務あるいは運転中止義務が課せられている。そのような違反行為のうち、薬物と病気だけに危険運転致死傷罪が制定されている。ここで過労にも危険運転致死傷罪を制定しようというもの。
むしろ平成25年改正に含まれなかった理由が分からない。これに触れる書籍記述には以下のものがある。
なお事故捜査の観点では、衝突の衝撃まで眠ったまま起きないために、ブレーキ痕がないことが立証材料となることが多い模様。危険運転の認定はしやすいように思う。
……職業ドライバーは反対するかもしれない。
被害者数に伴う結果的加重犯の制定
事例②は、多数の被害者が発生したケース。乗員乗客41人中、15人が死亡、残りも全員負傷という大惨事となった。
現行法では、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪の量刑の最長は、被害者数にかかわらず7年となる。たとえば平成29(わ)471の判決文を読むと分かる。この裁判では、科刑上一罪の処理が行われていることが明記されている。
ひとつの事故で被害者が5名の場合、被害者それぞれに過失運転致死や過失運転致傷が成立する。しかし、刑法54条1項前段の定めにより、これらのうち最も重い罪で処断される。この扱いがあるため、事例②のように死者15人といった大人数でも、現行法では過失運転致死傷罪の上限、7年までということになる。
ここに、被害者数あるいは死者数に応じて、結果的加重犯を制定する方向にはできないだろうかと個人的には思う。
結果的加重犯とは、ある行為によって想定される以上の結果が生じた場合に、想定される結果の場合に比べてより重い刑罰を科す、そのような犯罪類型を指す。
傷害致死罪(刑法205条)などがよく例示される。懲らしめてやろうといった理由で殺意なく傷害を与えたつもりが、転倒して打ちどころが悪かったなどの理由によって死に至った場合、傷害致死罪となる。死に至るという結果がなければ傷害罪(刑法204条)に留まるところ、死に至るという結果発生を理由に、より重い傷害致死罪(刑法205条)と扱う。
上に示したものは故意犯。しかし過失犯に対しても結果的加重犯が規定されているものはある。
上記、刑法205条や公害罪法3条2項の中に「よって」と記されている。これが結果的加重犯で用いられる用語らしい。明確に解説されている書籍が見つからないところ、ネットではそのように解説されている。「よって」よりも前が基本犯の説明、「よって」よりも後が加重結果となる。基本犯が成立し、因果関係のある形で加重結果が発生すると、結果的加重犯が成立する。
もともと過失運転致死傷の成立経緯は、過失傷害(刑法209条)や過失致死(刑法210条)の流れを汲んでいる。過失致死傷→業務上過失致死傷→過失運転致死傷→自動車運転処罰法5条という流れで成立している。交通事故以外の過失致死傷では、被害者は少人数になることがほとんどだと思う。しかし交通事故では、被害者が多数となることもしばしばある。そのような場合に現行法の法定刑は馴染まないのだと思う。
そこを結果的加重犯でカバーできれば、過失運転致死傷の法定刑を上げなくても対応できると思う。
なお、結果的加重犯において、基本犯が成立すれば加重結果についての予見は不要とされている(最三小判昭32.2.26、昭和29(あ)3604)。そのため、こんなに大人数に被害が出るとは思っていなかったという言い訳はできない。
少し話は変わる。「現状分析」の節で『裁判例にみる交通事故の刑事処分・量刑』を紹介した。過失運転致死97件のうち、過失運転致死の最長、7年に振り切っているものが1件あることを示した。おそらく東京地判平24.11.16と思われる、この1件を掘り下げる。
この事故、車内で流していた音楽のリズムに合わせて急ハンドルを切り、路外逸脱したことが原因と認定されている。歩行者4名のうち、2名死亡、2名負傷。加えて同乗者3名負傷。計7名が死傷する大惨事となった。
主訴は危険運転致死傷(高速度類型)で求刑15年だったが、認められなかった。予備的訴因の過失運転致死傷となり、この上限7年の判決となった。検察の思いは15年超。7年を振り切っており、やむなく7年となったケースだろう。
しかしこの事故も、被害者数に伴う結果的加重犯規定があれば対応できると個人的には思う。
……こちらもまた、多人数の乗客を扱う職業ドライバー、バスの運転手は反対するかもしれない。
危険運転致死傷罪の構成要件の広範化と明確化
危険運転致死傷罪に関し、現行条項の広範化には反対、新類型の制定には賛成、現行条項の構成要件の明確化は行われているとする立場。
要望書では「構成要件と現実の乖離が明らかになってきました」「同罪での起訴は本当に難しい」「法律を守る私たちも容易に理解できるような書きぶりにすべき」とある。また、一部の条項には具体案を交えながらもっと明確にすべきと要望が記されている。
これらについて、以下に私見を記していく。
結果的加重犯における因果関係
危険運転致死傷は、結果的加重犯の構成となっている。危険運転致死傷の条文に、結果的加重犯の構成を表す「よって」が含まれていることを確認する。
結果的加重犯であるが故、基本犯と加重結果の間には、因果関係を必要とする。因果関係があるとはどういうことか。この点、以下書籍の説明が参考となる。
危険運転致死傷における基本犯の行為は、危険運転行為と説明されている。以降では、この用語を用いることとする。
これを踏まえたうえで、要望書の具体案の一部を再掲する。
この具体案は、結果的加重犯の因果関係という観点で問題があるように見える。
アルコールに強い人は、飲酒量に比して影響を受けにくい。飲酒検知の数値で適用を判断してしまうと、酔っておらず、飲酒が車の運転に影響していない状況にもかかわらず、危険運転致死傷罪で処罰することになる。これは、結果的加重犯の因果関係の観点で問題と思う。
そして遺族団体は、おそらく逆のケースを考えていないのではないかと思う。アルコールに弱い人は、飲酒量に比して影響を受けやすい。飲酒検知の数値で適用を判断してしまうと、このような人を危険運転致死傷罪から取りこぼす可能性が高まる。
加重処罰の掛け方
量刑を加重する方法には、結果的加重犯以外のの方向性がある。法6条には無免許運転加重が規定されている。これは、結果的加重犯とは別の形で加重をかける方法となっている。
書籍では以下のように解説されている。
これが可能なら、アルコール関連もこの種の加重の掛け方にするという方向もありかと思う。
交通違反行為は、大きく2種類の態様がある。ひとつは、運転を開始したときに既遂となり、運転している間は違反行為が続くもの。もうひとつは、運転中の特定の行為で違反が発生、既遂となるもの。前者は線的、後者は点的と言ってよいと思う。
危険運転行為を線的と点的で分けると、法2条1項(アルコール、薬物)、法2条3項(無技能)、法3条(アルコール、薬物、病気)は線的、その他は点的となる。線的なものについて無免許運転加重と同様の加重構成としてはどうだろうか。酒気帯びに限定すれば、以下のような感じだろうか。
先の書籍に沿えば「……(人身事故)……を犯した者が、その罪を犯した時に酒気帯び運転の場合、酒気帯び運転の危険性等から、当該各罪と道路交通法の酒気帯び運転との併合罪加重による処断刑以上に重い法定刑とすることを定める」という加重構成。
このようにすれば結果的加重犯とは異なり、因果関係を要求されない。そのため、アルコールの影響で事故を起こしたことを立証する必要はない。認知症などを患っており、意識消失の原因がアルコールによるものか認知症によるものかが判然としない場合でも、この加重構成なら酒気帯び運転加重を行える。
このように加重構成を変えたうえであれば、具体案のとおり「飲酒検知の数値だけで一律に」という形にすることも問題がなさそうに思う。結果的加重犯の加重構成のままで、「飲酒検知の数値だけで一律に」とすることには問題があると思う
類型が異なるものを混ぜて考えている点
要望書の具体案の一部を再掲する。
高速度類型の法解釈は、過去に記事にまとめてある。
個人的意見の詳細は、上の記事に記してある。現行の高速度類型とは別に、高速疾走類型を制定すべきと考える。名称は紛らわしいから検討の余地がある。
これらの類型は、何を問題としているかが大きく異なる。
現行の高速度類型は、速度超過を理由とした進路逸脱を焦点としている。進路逸脱による、歩道上歩行者や対向車や同乗者への危害のおそれ。これが危険性の本質にある。進路逸脱の危険性が具現化したこと、速度がその具現化と因果関係を持つことを根拠に、結果的加重犯としている。そのため、典型的にはカーブ路に適用され、カーブの限界旋回速度がおおよその基準となる。
一方の高速疾走類型は、速度超過を理由とした他車衝突回避の困難さを焦点としている。交差点での右折車や交差車両、同一車線上の先行車両、追い越し車線に車線変更してきた先行車両、速度超過を理由としてこれらの車両への衝突回避が困難なこと。これが危険性の本質にある。
これを混ぜて考えている点、しかも現行の高速度類型に影響を与える形で基準を決めようとしている点が問題と思う。
具体案基準「制限速度の2倍以上の速度」といった基準だと、現行基準の危険運転致死傷罪から取りこぼす可能性が出てくる。現行基準は、限界旋回速度をおおよその目安としている。そのため具体案基準とすると、限界旋回速度~制限速度の2倍のような事故態様は、危険運転致死傷罪から取りこぼすことになる。
『必携自動車事故・危険運転重要判例要旨集第3版』から実例を示すと以下のものがある。以下は、現行基準に基づいて危険運転と認定されたところ、具体案基準だと危険運転とはみなされない。
また、湿潤路、タイヤの摩耗、過積載など、限界旋回速度を下げるような状況で運転すると、現行基準では成立しやすくなる。さらに、湿潤路、タイヤの摩耗、道路の隆起では、直線路でも現行基準で危険運転は成立する余地がある。具体案基準は速度だけで判断するため、これらを取りこぼしやすくなる。以下の実例は直線路のもの。
具体案基準だと、上に示したような事故を取りこぼすことになる。要望書に「重大な危険且つ悪質な事案について取りこぼしがないよう危険運転致死傷罪の構成要件を今よりも広く、且つ分かりやすく改正してください」に書かれているところ、この目的を満たせない要望になっていることに気付いているだろうか。
危険性の観点がまったく異なるのだから、現状の条項と基準は残したまま、別の条項とすべきと考える。法2条2号の条文内に、進路逸脱を明記していなかったのが問題なのかもしれないと個人的には思う。条文に「進路を逸脱し」などと記して、書籍等で「高速度類型(進路逸脱型)」「高速度進路逸脱類型」などと記せばいいのではないかと思った。
なお、高速疾走類型の速度基準をどのように制定するのがいいかはわからない。類似ケースで話題になったYoutubeのコメントなどを見ると、以下のものがあり得そうに思う。
一定の超過速度
制限速度ごとに設けられた超過速度
一発免取りの30km/h以上(高速道路40km/h)
道路構造令などで定める道路の種別ごと
今回の要望書に記されているような、制限速度の一定倍
あとは、結果的加重犯ではなく、前節同様、無免許運転加重と同じ加重構成にはできないものかと思った。これなら段階的に荷重をかけることもできそうに思う。
たとえば+10km/hごとに法定刑を1年引き上げるといったように。現行の過失運転致死傷の法定刑が長期7年。+30km/hで長期10年。+50km/hで長期12年(法3条相当)。
殊更赤無視
要望書の具体案の一部を再掲する。
これは何を言いたいのかがわからなかった。
現状では、確定的認識と未必的な故意があれば、殊更赤無視が成立する。故意が認められれば、現行でも殊更赤無視は成立していると思う。速度の規定を問題としているのであれば、20km/h程度でも殊更赤無視は成立しているので、実務上問題とされることは少ないと思う。
殊更赤信号無視の主な争点は、
確定的認識の否認「進入前に見たときにはまだ黄色だった」
故意の否認「気付いた時には赤、すぐ制動したが停まれなかった」
といったもの。これらは、記されている具体案では解決しないように思う。
法律の理解の容易さ、単純化
この部分には違和感がある。うまく言語化できず、とりとめない内容となってしまうかもしれない。思うところを記す。
その1
危険運転行為は、危険運転致死傷の実行行為として扱われる前の段階で、道路交通法で違反とされている。「法律を守る私たち」はその水準で守るべき。
たとえばアルコールの危険運転致死傷の成立には、アルコールの影響を受けて正常な運転が困難な状態になったことを必要とする。
2024/08/22修正。運転開始時や運転途中での酩酊を要件とする→アルコールの影響を受けたことを必要とする。
しかしアルコールの影響を受けるか否かよりも前段階、酒気を帯びた運転は全面的にされている(道路交通法65条)。処罰規定が酩酊(道路交通法117条の2第1号)や基準値以上(道路交通法117条の2の2第3号)に限られるだけであり、もっと前段階で禁止されている。
「法律を守る私たち」という視点では、道交法65条1項の基準で法を守るべき。どのような状態になれば自動車運転死傷処罰法2条や3条を満たすのか、それによってどの程度の処罰となるかを気にするのは、犯罪者の視点。その部分に「法律を守る私たち」を持ち出すのは無理やり感がある。
その2
一般国民に分かりやすくあるのが望ましいとは思うものの、法文の書き方で解決すべき問題とは必ずしも思わない。法文の書き方で解決できていればいいが、それを噛み砕いて説明する能力や立場にある人が行うという方法でもいい。
具体的には、政府広報、警察、弁護士、メディアなど。たとえば政府広報は、煽り運転の10類型を説明している。警察庁は、煽り運転の10類型をイメージで表したPDFを公開している。これと同様の説明を、危険運転類型についてそれぞれが説明すればよいと思う。
メディアの責が大きいと感じる。それは以下の記事で取り上げている。立法の問題にもかかわらず司法の問題であるかのように報道しているメディアが大多数なので。
その3
一般国民にとっての分かりやすさよりも、司法関係者にとっての厳密さ、法律判断を行う者にとっての厳密さが優先すると思う。
これは一般国民を蔑ろにしてよいという趣旨だと誤解されるかもしれないので、少し補足する。参議院法制局が出しているコラム(?)がある。
この中に、「してはならない」「することができない」の法令上の使い分けが示されている。どういったときにどちらを使うかが、法令用語は明確に区別されている。
法以外の解説書籍や文学書籍などでは、読みやすさが重視され、場合によっては似たような語句でも語感などで変えるようなこともある。韻を踏むといった手法を用いる場合もあるだろう。
しかし、法令用語には明確な使い分けがされているものが多くある。これは上記のサイトに理由が書かれている。立法者の意図した内容が正確かつ厳密に表現されていること。それが法令では重要と記されている。
法令用語を用いることで、一般国民にとって自然な文章とならないことがあり得る。一般国民にとっての分かりやすさを求めるあまり、法的な厳密さを損なうことがあっては本末転倒と思う。
一般国民にとっての分かりやすさは、メディア等の解説によって補完できる。対して法的な明確さは、法令以外で補完できるものではない。
その4
条文にすべての判断材料が記されているわけではないということ。単純だと思われているだろう殺人罪を示す。
構成要件を表す言葉は「人を殺した」だけとなっている。この文章から以下を判断できるだろうか。法令にすべての判断材料が書かれているわけではないというのは普通のこと。
「人を殺した」の対象たる人の始期と終期はいつか
→ 胎児は殺人の対象か、対象ならいつから対象か
「人を殺した」の対象たる人に自身は含むのか
→ 自殺未遂者は、殺人未遂罪の対象か
制御困難高速度類型(法2条2項)の直線路事故における起訴、上告
先に書いたものと同じ内容となる部分が多い。被っている部分の詳細は省く。
過去の司法判断
法2条2号が進路逸脱を焦点に定めた条項という立法趣旨を踏まえて考えれば、裁判の結果は妥当な判断と個人的には思う。
直線道路を車線に沿って300km/hで走行できるということは、それなりの足回りの車ということだろう。普通の車でエンジンを変えただけでは、容易に進路逸脱すると思う。そうならずに走行できているからには、進路逸脱視点での制御困難性が否定されるのは当然のこと。
先に書いたことを繰り返す。
進路逸脱視点での制御困難性、他車衝突回避視点での制御困難性、これらを混合して考えている部分に問題がある。
両者の視点はまったく異なる。そのため、他車衝突回避視点での制御困難性を対象とした条項を別建てで制定するのが適切と、個人的には思う。
このあたり、過去に記した以下の記事に詳細をまとめてある。
起訴、上告
ここはある意味同意。
刑事事件の起訴有罪率が注目されすぎという事情があるのだと思う。そのため、敗訴濃厚な事件では控訴や上告しづらいというのがあるのだと思う。そして、「99.9-刑事専門弁護士-」のような、起訴有罪率の高さを題材とするドラマを作っているメディアにも問題の一端があると思う。
最高裁判断
この「常識的な判断」の部分は疑問。世間的常識判断として意見が通ると思っているのかもしれない。
最高裁で行う審議は、法令の解釈が正しいかという観点に基づく。名古屋高裁の判断は、法制審議会で行われた立法趣旨を参照しつつ、これを踏まえて行った司法判断となっている。これを最高裁が法令解釈の観点で覆すとは到底思えない。立法趣旨を司法が覆すようなら、それは法治国家ではないと感じる。
ただ、棄却という結果であろうとも最高裁の判断が行われれば、法改正しか手がないことが明確になる。その意味では最高裁の結果を見たいとも思う。
最後に
要望書には「ながらスマホ」に関する部分がなかった。
あいの会に掲載されている画像、朝日新聞2024/1/20には、以下の記述が見える。
この部分には賛成。要望書に記されていなかった点は疑問。
捜査する立場の者がどのように立証していくかは気になるところ。
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