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夜明け前

目が覚めて気付いたことは
心の真ん中に少し、穴があいているという感覚だった。

薬で無理やり眠りにつき
とても浅い眠りの中で夢にうなされ
夢の中で過去のトラウマと葛藤を続け
また朝がやってくる。

起きてすぐ、水道の蛇口をひねった。
勢いよく出てきた水は、それなりに冷たかったけれど
あっという間にコップいっぱいにそそがれた水は
思っていたほどの冷たさではなかった。

自分がずっととらわれているコトも
所詮、それほどのことではないのだろうか。


どうでもいいと選んだ服は
誰かと出かけるにはとても選べないようにすたれていた。
とにかく、着替えて、外の空気を吸いたい。
そうして着替えを済まし、顔を洗い、水を飲んでから
少しでも風を感じたくて、家を出る。


昨日久しぶりに、本を読んだ。
大好きな小説家、橋本紡先生の「ひかりをすくう」。
正直、なんでもよかった。
とにかく変化を加えたくて、何かを変えたくて
ジッと本棚を眺めて、そういえばと思い、橋本先生の小説に目をやる。
お気に入りの本を手に取ろうとしたけれど
どこか直感が震えなくて、別の本を見たとき、タイトルに引き寄せられた。

「ひかりをすくう」

いまの自分が、求めるモノ。

この本は確か、心が病んだ女性が主人公の話だった。
それだけは覚えていて、ああ、どこか、いまの自分を重ねられるかな、なんて。
そんなことを思って、手に取って、読み進めてみる。

3回は読んだはずだったけれど
久しぶりの物語は、とても新鮮だった。
本と向い合うのは、ほんとうに久しぶりで
文字をじっくり追いかけるのに、とても時間を要したけれど
一つひとつの言葉を追いかけるたび
物語はちゃんと進んでいき、ページは次へと進む。

ああ、人生も、時間がかかってしまっても、進めることができるのかな。

そんなことを思いながら、あまりにも遅いペースで
僕はその本を読み進めていった。

昨日はそうして、最初の章だけ、60ページくらいか。
誰かにとって「たった」かもしれないことが
自分にとっては大きな変化であり、前進であった。
何かを「進めた」という実感は、見えないほどちょっとだけ
僕の心を動かしてくれた。

ありがとう、橋本先生。
ありがとう、本。


とても心地いい風だった。
外の空気を吸うために、海岸沿いへ。
久しぶりに散歩をした。
「動けない」とばかり口にしていた自分を叩き起こし
少しばかりの散歩をしたけれど
やっぱりこういう時間は良いものだなと、思う。

余計なことから離れて
広がる海と青い空を眺めて
一歩一歩を噛み締めながら歩き
心震わせる音楽を聴きながら
じぶんと向き合ってみる。

1時間くらいゆっくり歩いて
何かを見つけたかといえば
何も見つかることはなくて
それでも感じた。

「ああ、ちゃんと、なんとか生きてる」

飛び込むことに怯え
光のある方角を避けて
ひとり座り込んで震えた。

いまも、そうしているのかもしれない。

このまま、なんて。

ううん、違う。
まだ、これから。

いまは、夜明け前。
震えた心が、そう言った。

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