強制採尿は無令状でなし得るか(刑事訴訟法論点研究的なやつ)
今回は強制採尿(対象者が排尿を拒む場合に、その抵抗を排除して強制的に―具体的にはカテーテルと呼ばれるゴム製導尿管を尿道に挿入して―尿を採取する事)を無令状でなし得るか、について考えたい。
なお、そもそも強制採尿は、対象者の受ける負担が他の強制処分に比して著しく大きい等の理由で、いかなる条件によっても認めないとする立場もあるようである。
しかし今回は、実務の運用の観点から、強制採尿を一定の条件の下認める判例(最決昭55・10・23刑集34巻5号300頁)の立場に則って記事を書きたいと思う。
判例は、強制採尿は「適切な法律上の手続を経て行う場合にのみ許容される」としていて、「適切な法律上の手続」として条件付捜索差押許可状を取得すべき旨示している。
そうすると、やはり無令状による強制採尿は不可能だと考えられそうだ。
だが、『尿がいずれ体外に排出される無価値物であるから、これを強制的に採取するという行為は捜索差押の性質がある。だから強制採尿は捜索差押許可状によるべきである。』との判例のロジックからすれば、逮捕に伴う無令状捜索差押(刑事訴訟法220条)によって可能なのではないか、との疑問が浮かぶ。
220条によって無令状で強制採尿できるのでは?という問題だ。
この点について、たしかに前述の判例の論理より、強制採尿の捜索差押としての性質を強調すれば、220条によって無令状で強制採尿をなし得るようにも思える。
また、対象者が任意採尿を拒否していて、かつ対象者の尿意が限界、といったような強制採尿の緊急性が高い場合(令状到着を待っていたのでは証拠保全が難しい場合)も考えられなくはない。
しかし、そもそも強制採尿は「捜索差押の性質を有する」のみで、捜索差押そのものではない。
また、前述したように、強制採尿は他の強制処分と比べて重大な身体的精神的負担を対象者に強いるものである。
このような重大な処分を裁判官の審査を介さず、現場の警察官等の判断のみで行うのは妥当とは言い難いだろう。
さらに、前述したような強制採尿の緊急性についてだが、覚せい剤等の検出は尿以外にも髪の毛や血液等によっても可能であるようだし、対象者が尿意の限界を超えて漏らしてしまったとしても、証拠保全という観点からはほとんど問題にはならなそうである。後々衣服を差し押さえる事も考え得るし。
ただし、このような場合対象者をトイレに行かせなかったとして、別途身柄拘束の適法性が問題となり得るが。
以上のように、220条に基づく強制採尿も認められないと考えられるので、やはり無令状による強制採尿は許されないと考える。
なお、以上の議論は嚥下物の採取等についても妥当するだろう。
また、血液、唾液、毛髪の採取については、人体の一部であり無価値物とはいえないので、これらが人体にとどまる限りそもそも捜索差押許可状の対象物とはならないだろう。
これらを採取するには身体検査令状と鑑定処分許可状の併用によるべきだ(刑訴法218条1項、222条1項、129条、139条、225条1項、168条1項)。
<参考文献>
・宇藤崇他『刑事訴訟法(第2版)』(有斐閣、2020)
・井上正仁他『刑事訴訟法判例百選(第10版)』(有斐閣、2017)
・『趣旨・規範ハンドブック3 刑事系(平成30年度版)』(辰巳法律研究所、2019)