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心に癒しの風景を置く〜温室と夜景のトラウマ的差異
これまでも時々noteの記事にしていたが、私は5年ほど、トラウマ治療を受けていた過去がある。
※治療の経緯などについての詳細はこちら。
治療の多くは暴露療法に近い苦痛の大きいものだったが、いくつかは穏やかなやり方もあった。
今回はそのうちのひとつ、「心に癒しの風景を置く」というやり方を思い出しながら書いてみたい。
トラウマ治療のようなハードな目的でなくても、今現在、心がつらい人が、自分でできるヘルスケアのひとつとして役立ってくれたら嬉しいと思う(※本記事はスピリチュアル系とは一切関係がありません)。
*
人は何かをイメージすることで情動をコントロールできる生き物だ。
それはこれまでの成功体験をイメージするような「学習」にも言えることだが、もっと単純な 例えば、緊張する場面でうまく笑えない時に、友達との楽しい時間を思い浮かべたり、お気に入りのぬいぐるみを思い出したり そんな些細なことで、人の心は変化して、同時に体もリラックスすることができる。
そんな心理を利用した癒しの手法が「心に癒しの風景を置く」というやり方だ。
これはRPGにある回復領域のようなイメージで、「自分が絶対に安全だと思える場所」「そこにいるだけで心身が回復するような場所」の具体的なイメージを普段から作り上げておき、心が辛くなった時にその空間をイメージすることで、精神の治癒力のようなものにアクセスしやすくする訓練である。
人間には本来、治癒力がある。他者に助けられることはあっても、心身の傷を治すのは、いつだって自分自身なのだ。
この手法はその治癒力を効果的に使うためのもの。
普段から自分が回復しやすくなるイメージを具体化して意識しておくことで、心身が弱っている時に1から回復力に至る道筋を構築する必要がなく、より早く・より楽に、自分の中にある回復力を使うことができるのだ。
メンタルが危機に陥った時にその空間をイメージすることで、心の緊張が和らぎ、リラックスして、少しでも笑顔になることができる……そんなシンプルな手法である。
ただ、トラウマを抱えている人の場合、これが難しいことがある。
詳細については「解離」の記事にも書いたが、「トラウマの再演」と呼ばれる人間の心理が、ここで大きな障害となってくる。
というのも、トラウマを抱えて解離症状を呈している人の場合、その人が「好き」だと思うものが、実際にはその人の心を傷つけるものであることが、しばしばあるのだ。
人間は多大な苦痛を経験すると、解離によって、その時の記憶や感情を「感じない」ものとして、”冷凍”してしまう。だが、その状態は不自然であるため、心身や生活に余裕が出てくると、その記憶を正常なものとして”処理”するために、脳が無意識のうちに”解凍”を試みる。これがフラッシュバックの原因だが、しばしば大きな精神的苦痛を伴うため、その記憶を抱えた人は”解凍”を拒否してしまう。これがトラウマが”普通の記憶”になることができないベーシックな構造である。
とはいえ、脳は、そして人間は、強い。なんとか、少しでも、不自然な”冷凍”記憶を”処理”しようとする。その時の気持ちを現在に呼び覚ますことで”正常”に戻ろうとする。
その結果、トラウマの原因やそのトラウマを負った状況へ近づこうとする脳の働きが、それを自分の嗜好だと勘違いさせてしまう。
具体的に言えば、本来しんどいはずのものを「好き」だと勘違いして、近づこうとしてしまうのだ。
性的暴行を受けた過去を持つ人間が、加害者に似ている人に惹かれてしまったりする。ダメな父親を持った娘が、同じようにダメな男にばかり惹かれ、まともな異性関係を築けなかったりする。戦争を体験した人が、自ら争い事の多い環境に身を置こうとする。
……そういった病理を「トラウマの再演」と呼ぶのだ。
話を戻そう。
トラウマが癒えていない人間の場合、上に述べたような理由で、「これが好き」「癒される」と思ったものが、その人の心を心底癒すものであるかどうかは多分に怪しい。単純にトラウマに触れるものに惹かれているだけのことも、往々にしてあるのだ。
そうなってくると、普通の人には簡単な、自分にとっての本当の「癒し」を思い浮かべることが難しい。
私の場合は、まず「トラウマの再演」と「好きで癒される」ものの見極めがなかなか困難だった。というのも、このやり方をカウンセラーに勧められた当時、私は自分のトラウマの多くを、まだ思い出せていなかった(=トラウマとして認識できていなかった)からである。
どのようなイメージが本当の癒しなのか、感覚としてわからないままにトラウマとの区別をするのは本当に難しかった。しかし身体は正直だったので、「トラウマの再演になることをすると、猛烈な腹痛の発作が起こる」ということがだんだんとわかってきた。
そうやって痛い目に遭いながら分類していくと、やがて「癒し」と「トラウマ」を見分けるいくつかのポイントがわかってきた。
「トラウマ」に連なるものは、そのイメージをした時に、アドレナリン寄りのエネルギーが湧いてドキドキ・ゾクゾクする。「楽しい!」「好き!」と感じる。駆け出したくなるエネルギーが溢れ出す。
一見元気になるが、その力は馬に鞭打った瞬間の反応のようなもの。鹿が轢かれかけた時のようなもの。吊り橋効果的で、冒険に向かうような、捨て身タイプのエネルギーだ。
また、このタイプの嗜好は往々にして、性的興奮を伴う。これは人間が恐怖を感じて胸を高鳴らせた時に、生命の危険から性的営みを欲することに由来するらしい。本質的に怖いものに、興奮するのだ。
私の場合は、夜景・和風・遊郭・クラシックに類するものがこれに当てはまるものだった。
一方、「癒し」となるようなイメージは、上記とは別の方向の、セロトニン寄りのエネルギーだ。イメージすると、胸の痛みや心のしこりが解けるようなもの。ふわっと肩の力が抜けて、思わず涙が滲むようなもの。「ああ、好きだなぁ……」と目を閉じたくなるようなもの。
決して「元気」にはならないが、座り込んでしまえるような脱力感が得られるものだ。
私の場合は、柑橘類・ハーブ・温室・温泉に類するものがこのタイプだった。
私の中で温室に優しいイメージがついたのは、中高時代に読んだ漫画や小説の影響によるものだろう。当時心を奮い立たせるために読んでいた、種村有菜の「紳士同盟クロス」や、共感して読んでいた「マリア様がみてる」の3巻(聖と栞のエピソード)などの影響で、温室は「日常に連結しながら、逃げ込むことができる非日常」の象徴として、私の心に根付いていたらしい。
実際、植物で溢れ、適度な湿度と温度が保たれ、ガラス張りで陽光も得られる空間は、私の本質的な癒しに繋がっていたようだ。
これは温泉などにも一部共通している。
私のトラウマの中で半分を占めていた性被害の経験は、遊郭や和風なものにイメージを固着させていた。
そのため、かさついた、寒さに震えるような「遊郭トラウマ」とは真逆なものを、無意識に求めていたのかもしれない。
※遊郭トラウマに関するお話はこちら(胸糞注意)。
そうやって自分の嗜好から、トラウマと癒しを分類し、作り上げたイメージはこんな感じだ。
” 大きな温室のあちこちに柑橘類が茂り、実をつけ、
ハーブの良い香りが漂う。
水の流れる美しい水庭を間接照明が照らし、
頭上にはガラス越しに星空が見える。
水庭の真ん中に作られた浮島的な場所に、大きなベッドが置かれており、
適温・適湿度の中でゆっくり休むことができる。
両脇に植物が茂る小径を少し登ると、大きなプールのような風呂があり、
ふかふかのタオルがあちこちに積まれ、湯船には花が浮いている。
温室の裏手は森、周りはちょっとした芝生で、周囲に家は見えない。
のんびりベッドに寝転んでもいい。
温室の植物を見ながら散歩するのもいい。
星空を見上げながら、広い風呂に入るのもいい。
誰もいない場所で、温まりながらゆっくり、静かに過ごすことができる。”
1年近くかけてこのイメージを作り上げ、それ以降は、心が痛くてささくれてたまらない時、ベッドに横になってこのイメージの中を自由に歩いたり寝転んだりすることで、心の緊張を和らげることができるようになった。
(余談だが、トラウマ由来で「好き」だった夜景や和風のものに対する興奮は、治療を受ける過程で沈静していき、今では「興味がある」「面白い」程度に落ち着いた。思い浮かべても走り出したくなったり、心臓がドキドキすることもない。
面白みは減ってしまうが、心身が傷つくことを避けられる、「自然」な形におさまったのだ。)
*
人それぞれ、「癒し」の形は異なる。
普通の人にとったら良いものも、傷になることもある。
「好き」の本質を勘違いしてしまうことも多い。
あなたの「癒しの風景」は、どんな形だろうか。
温室写真集
上に述べたような経緯で、温室が好きであることに気付いてからは、あちこちの温室を訪れるようになった。せっかくなので、いくつか写真を掲載しておこう。
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the Farm UNIVERSAL (大阪)
そのうちたくさんの記録が溜まったら、改めて温室紹介の記事も書くかもしれない。
メンタルや治療云々を抜きにしても、寒い冬には癒されること間違いなしなので、ぜひ行ってみてください。