ワークライフブレンド vs ワークライフバランス
皆さまは「ワークライフブレンド」という言葉をご存じでしょうか?
文字通り、ワークとライフをブレンドする、仕事と生活の境目がなくなることを志向するような働き方を指します。
こんにちは。グローネクサス代表の小出です。元デロイトで14年、最終的にはディレクターで多くの大手企業を支援していました。
現在ではグローネクサス代表として、主に大手企業における人材戦略・人材マネジメント策定やワークスタイル変革、リスキリングのお手伝いしています。
https://grownexus.co.jp/
このワークライフブレンド、近年のウェルビーイングやワークライフバランスのトレンドに真っ向から挑むようなパワーワードですが、実は提唱され始めたのは2015年頃からです。
HUFFPOSTに"Forget Work-Life Balance: Aim for Blend Instead(ワークライフバランスを忘れて、代わりに融合を目指す)"という記事が投稿されました。
本記事では、ワークライフブレンドと、昨今トレンドになっているオフィス回帰について、ワークスタイルの観点から考察します。
ワークライフブレンドとFOMO
いつでもメールやチャットが飛び交い、メンションされ、返信しないといけないという心理的切迫感から、ついつい休憩中、休暇中に返信してしまうような状況は、多くの方が経験したことがあるのではないかと思います。
ソーシャルメディアなどで何かを見逃すことへの不安を「Fear of Missing Out(FOMO)」と言われますが、職場でも「Workplace FOMO」という形で使われ始めています。
かくいう筆者は、完全なるWorkplace FOMOです。
特にマネジメントポジションについてからは、自身の指示やアドバイスがなければ、メンバーの仕事がスタックしてしまうのではないかという不安がありました。
デロイト時代は社内制度であるワーキングプログラム(終業以降は仕事しない制度)を、一応、適用していたのですが、育児・家事しながらついつい仕事のメール・チャットに反応していました(妻よ、子どもよ、ごめんなさい)。
一方で、返信しないことはむしろ不安とストレスであり、そういう不安解消と、結果としてチームの仕事が早く進むことから、自然とワークライフブレンドを志向していました。
私の場合は、ワークライフバランスがむしろストレスだった、ということですね。
オフィス回帰の傾向
さて、最近オフィス勤務への回帰が話題になっています。
この背景には、筆者のクライアント様にもお伺いしたところ、「労働需給の緩和(売り手市場が弱まり、企業側が強く出られるようになってきた)」「オフィス回帰を通じたコミュニケーションロスの回避」「企業への帰属意識の醸成」などがあるようです。
もちろん、社員側からして、一度得られた「快適な自宅での勤務」「あの!満員電車での通勤を回避できる」といった条件を手放すことは、感情的にも受け入れがたいでしょう。
実際に、2023年9月に、日本市場を対象にロジクール社が実施した委託調査を行っています。
リモートワークを経験したことがある人のうち、82%が「リモートワークを継続したい」と回答しており、62%の社員が「オフィスでのフルタイム勤務体制に戻らなければいけない場合には、新しい仕事を探すことを検討する可能性がある」と回答してます。
実際にはオフィスフルタイムになったとて、6割の方が離職することはないでしょうが、それでもITやコンサルといった業種を中心に、一定の割合で離職率が高まることは考えられます。
リモートワークの功罪
withコロナであった時期、すなわち2020~2022年において、「リモート環境でいかに社内外のコミュニケーション濃度を維持するか」が経営課題になりました。
多くの企業で、「TeamsやSlackをはじめとしたコミュニケーションツールをいかに使い倒すか」「自然発生しないコミュニケーションを、仕組みとルールでいかに補完するか」という視点で構想し、施策を導入しました。
近年はそれが当たり前になり、「移動時間が減って生産性が高まった」「デジタルリテラシーが高まった」「コミュニケーションの頻度はむしろ高まった」などというメリットが聞かれます。
一方で、「生産性が高まりすぎた人」と「生産性が低まりすぎた人」の二極化が進んでしまったとも言えます。
前者は管理職、企画職、ITなど。後者は営業など。
と職種別に書くとそうかなという感じですが、もっと生々しい話をすると、パフォーマンスの高い人により予定が集まり、低い人は仕事をする必要がなくなった、という話が聞かれます。
で、このようなテトリス状態の方々は、ワークとライフの切れ目を見つけることができず、ワークライフブレンド化していく傾向もあるようです。
実際に日本労働組合総連合会が行った「テレワークに関する調査2020」によると、テレワークのデメリットについて「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」という回答が44.9%と最も多い結果になっています。
オフィス回帰を社員のウェルビーイングにつなげるために
私のように「ワークライフブレンドのほうがハッピーだぜ!」という方はさておき、会社としてオフィス回帰について社員への恩恵を届けるためのヒントが、ここにあります。
すなわち、改めてオフィスワークとリモートワークの「イイとこどり」をするということですね。
オフィスワークは、ある意味仕事のオンとオフがはっきりします。会社から一歩出れば、いったんは終わり。
気持ちの上でのワークライフバランスはここで成立します。
一方、コロナを経て培った「コミュニケーションツールのフル活用」や「働く時間の柔軟性を維持(例えば育児・介護など)」「1on1による意図的なコミュニケーション時間の確保」は、オフィス勤務だろうが生きる取組です。
また、ワークライフバランスとブレンド、どちらを志向するかに合わせて、オフィス勤務制度を設計することや、上位者はそれを踏まえてマネジメントすることも欠かせません。
1つおもしろい事例として、本人の働く志向や望むマネジメントスタイルを「ワークスタイルカード」として記載し、毎月初めに職場で共有、上司とすり合わせるという取組を行っている企業もあります。
このように、オフィス勤務に回帰する上で、その効用や、あらためて社員の多様性や志向性をおもんぱかるような取り組みがあわせて必要になるのではないでしょうか。
まとめ
リモートワークの浸透は「望まぬワークライフブレンド」という副作用を生み出してしまいましたが、オフィス回帰はブレンドの解消につながるのでは?というお話でした。
ワークライフブレンドという生き方もあるが、リモートワークによって意図せずそのような状況に陥っている人もいる
オフィス回帰のトレンドが強まる中、社員にとっての恩恵も打ち出すべき
オフィス回帰は、望まぬワークライフブレンドの解消につながるのでは?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。少し古い本かつ前職の時に書いた本ですが、ワークスタイルのことについてより深く知りたい方は、下記をご参照ください。
また、自社でワークスタイル検討にあたり、お悩みがある方はお気軽にお問合せくださいませ。
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