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多様性をめぐる逆風の時代に、あえて「認知の多様性」に注目する

こんにちは、グローネクサス代表の小出です。


2025年1月、ドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領に就任してから、国内外で多様性に関する方針が揺れ動いているとの報道を目にします。


特に「多様性推進が行き過ぎていた」という声を背景に、過去に進められていた取り組みを巻き戻すような動きがあることは、さまざまなメディアでも取り上げられています。


一方、企業経営の世界では、今なお多様性の重要性は健在であると考えます。


多様性といえば、マシュー・サイド氏の『多様性の科学』を取り上げるべきでしょう。


サイド氏の主張の核となるのは、単に人種・性別・国籍などの「人類統計学的な多様性」(demographic diversity)だけでなく、「認知の多様性」(cognitive diversity)も併せて追求しなければ、組織の本当の力は発揮できないという点は、流行り廃りの類ではなく、普遍的な話です。


政治的な動きがどうであれ、ビジネスにおいては多様性がもたらす競争力が失われてはいけません。


本記事では、サイド氏の議論を簡単にご紹介しつつ、これからの企業がどのように「人類統計的多様性」と「認知多様性」を結びつけて活用すべきかを考えてみたいと思います。




「人類統計的多様性」と「認知多様性」とは?


人類統計的多様性(Demographic Diversity)

性別・年齢・国籍・人種・障がいの有無など、いわゆる“見た目”や“属性”に関わる多様性のこと。


一般的な取り組み

  • 女性やマイノリティ人材の採用比率を上げる

  • 高齢者や障がい者を雇用し、働きやすい環境を整える

  • LGBTQ+当事者への配慮・サポートを充実させる


メリットと限界

  • 組織が社会の縮図を反映するほど、採用面での魅力や企業イメージが向上しやすい

  • しかし「多様な属性の人をただ揃えればそれでOK」になりがちで、内面的な視点まで考慮しないと、真のイノベーションにはつながりにくい


認知多様性(Cognitive Diversity)

個人の思考パターンや経験、価値観、知識体系といった内面的・認知的な多様性のこと。


サイド氏の強調点

  • 同じ国籍や性別でも、育った環境や職歴、学習経験が違えば、問題解決のアプローチや発想が大きく変わる

  • チーム全体で“異なるものの見方”を結集することで、従来にない発想やイノベーションが生まれる


メリット

  • 「集団思考(グループシンク)」を防ぎ、新しいアイデアが生まれやすくなる

  • 変化の激しい時代において、多面的な視点で迅速に意思決定ができる




「多様性推進」に吹く逆風と、その本質的な課題


トランプ大統領が再任して以降、アメリカ社会を中心に、「多様性推進はやりすぎではないか」といった声が高まっていると報じられています。


具体的には、過去に導入したアファーマティブ・アクション(マイノリティに対する積極的差別是正措置)を見直す動きや、企業のダイバーシティ施策への政治的圧力などが話題です。


しかし、こうした流れを受けて「企業はもう多様性を意識しなくていい」と短絡的に考えるのは危険です。


なぜなら、多様性の“本当の価値”は、政治の方針や社会のトレンドとは切り離して考える必要があるから。


多様性には、前述したように「表層的に見えるもの」と「内面的に異なる考え方」の両方が含まれます。


社会的・政治的な逆風があるとしても、ビジネスの世界では組織の発想力や創造性、競争力を高めるために、認知多様性は不可欠です。


アメリカ第一主義とビジネス上の多様性による競争優位創出は別の話です




マシュー・サイド著『多様性の科学』のポイント


サイド氏は著書の中で、組織の失敗例や成功事例を豊富に引き合いに出しながら、多様性を軽視した集団がいかに大きなミスを犯し、逆に多様な視点を取り入れたチームがいかに画期的なアイデアを生み出したかを具体的に示しています。


失敗例:似た者同士の思考停止

  • 組織内で似た背景・思考パターンの人が集まると、同じ結論に飛びつきやすいため、リスクを見過ごす可能性が高まる。

  • 実際、ある大企業のスキャンダルなどは「身内同士で都合の悪い話ができなかった」ことが一因とされる。


成功例:異なる経験が混ざるチーム

  • 異なる分野の専門家や、多様な価値観を持つメンバーが議論に参加することで、盲点を補い合える。

  • イノベーションのプロセスでは、一見かけ離れている知識・経験同士が繋がったときに、大きなブレイクスルーが起こる。


人類統計的多様性との結びつき

サイド氏は決して「人類統計的な多様性など不要」とは言っていません。


むしろ、社会的背景が異なる人材を集めることで、結果的に認知多様性が高まるという可能性を強調しています。


ただし、採用時やチーム編成時に「マイノリティだから」「女性だから」といった表面的条件だけに注目するのではなく、それぞれが持つ独自の思考パターンやスキルを見極めることが重要だ、というのが本質です。




多様性は政治の流れとは別次元で考えるべき


トランプ大統領の再任をはじめ、世界の潮流が「多様性推進」に対して一時的にブレーキをかけているように見える動きは確かに存在します。


しかし、マシュー・サイド氏の『多様性の科学』で指摘されているように、企業や組織が真の競争力を発揮するためには、“人類統計的多様性”と“認知多様性”の両輪が必要です。


  • 人類統計的多様性は、組織が社会を映し出す縮図となり、多角的なニーズを捉える土台になる。

  • 認知多様性は、それぞれのメンバーが異なる考え方や経験を持ち寄り、新たな価値やイノベーションを生むエンジンとなる。


政治的・社会的な逆風が吹いていても、ビジネスが必要とする「多様な視点による価値創造」の重要性は変わりません。


むしろ、その大切さが改めて見直される時期とも言えるのではないでしょうか。


もし「最近ちょっとダイバーシティへのモチベーションが下がっていた…」という方がいれば、ぜひサイド氏の著書に目を通してみてください。


そこには、本質的な「認知の多様性こそが不可欠である」という力強いメッセージが詰まっています。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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